両足立位の支持基底面は、床に接地している足底の外縁を結んだ範囲です。(足底面の外縁を最短距離で結んだ範囲)
立位が保持できるということは、重心の床方向への投射点が支持基底面の範囲内にあることが必要となっています。
重心が支持基底面から出た際は転倒する前に、支持基底面を広くし重心を支持基底面内に入れる戦略がとられます。
つまり、バランスを保持するには以下の能力が必要です。
・重心を支持基底面内に留めるようにコントロールする能力(座位・立位など)
・変化する支持基底面内に重心位置を留めるようにコントロールする能力(歩行・階段昇降など)
支持基底面と重心位置
支持基底面内に重心が留まっていればバランスを崩すことなく、平衡を維持することができます。
反対に重心の動揺が大きくなると支持基底面から出てしまう可能性が高くなり、平衡を維持しにくく転倒危険性が高い状態であるということです。
そのため、支持基底面を変化させずに平衡を維持するためには重心動揺を小さくし支持基底面から出にくくする必要があります。
立位姿勢制御の研究は床反力計を用いて立位姿勢の保持中に足と床が接触すると発生する足圧中心の位置を測定することが多いです。【足圧中心の位置は重心の床への投射点と実質的に一致】
足圧中心の軌跡を評価するポイント
軌跡の移動量
立位姿勢で出来る限り重心位置を一か所にとどめるように指示した状態で、足圧中心の移動した距離が長いということはバランス保持が困難であったということになります。
閉眼した状態で立位をとった際には60歳以上で軌跡長が長くなってくる傾向があると言われています。
この事実から60歳を超えてくると視覚依存でバランスを保っている人が増えていると考えられます。
60歳以上の患者を担当し、バランス能力低下が生じている際には閉眼状態のバランス能力を評価しておく必要があるかもしれません。
また、前後左右別々で移動量を評価しておくことも大切です。
左右方向の移動量が大きいということは、左右下肢の加重比率がバランスをとる際に大きく変化していることを示唆しています。
前後方向では左右足底面の影響が考えられます。
左右・前後それぞれの重心移動を寄与するは異なるため、加重比率・足底面の影響だけでなく筋別で評価してみてもいいかもしれません。
軌跡の移動範囲
足圧中心軌跡の移動範囲ということは、どの程度広い範囲を動いたのかということであり面積で表現できます。
足圧中心が支持基底面の中心に位置することが多いのであれば、重心が支持基底面を超えてバランスを崩すリスクが少ないということになります。
重心移動の速度
足圧中心の移動速度を計測すれば重心の移動が速い動きであったのか、ゆっくりであったのかを評価することが出来ます。
重心移動速度が速いということは支持基底面から重心が外れる可能性が高くなり、重心移動速度がゆっくりであるということは支持基底面内に留まることが出来る可能性が高くなるということです。
重心位置
基本的な重心位置が前後左右どの位置にあるのかを知ることもバランスを評価するうえで大切になってきます。
もし基本的な重心位置が左に偏っている場合は、左方向へ重心が支持基底面から外れる可能性が高くなります。
そして右下肢への荷重が左と比較して不足している状態だということです。
前方へ重心が変位している場合は、前方へ転倒する危険が高いということになります。
前方へ変位している原因は身体機能低下により仕方なく生じているだけでなく、本人が意図的に戦略的として行っていることもあるので評価には注意が必要です
姿勢動揺の評価
【姿勢動揺量が大きい=バランス不良】というわけではなく、意図的な戦略としてバランスを保持していることがあります。
重心=足圧中心の軌跡から行うバランス評価には、身長が高い(重心位置が高い)・計測時間が長いといった特性により数値が個々で異なってきます。
総合的なバランス評価は足圧中心だけで行うことが出来るものではありません。
バランス保持を行っている時に筋緊張を高めてバランス保持を行っているのか、恐怖心が高い(精神的動揺が大きい)状態でバランス保持能力は変化することも評価の材料になります。
また、立位姿勢時の足圧重心の軌跡からみるバランス評価は静的なバランス評価であり、実際の生活で行う歩行・階段昇降などの生活動作時のバランス(動的バランス評価)も総合的に評価するためにBBS(Berg Balance Scale)やTUG(Time up and Go test)・DGI(Dynamic Gait Index)といった他のバランス評価を組み合わせてみてもいいでしょう。