両足立位の支持基底面は、床に接地している足底の外縁を結んだ範囲です。(足底面の外縁を最短距離で結んだ範囲)
立位が保持できるということは、重心の床方向への投射点が支持基底面の範囲内にあることが必要となっています。
重心が支持基底面から出た際は転倒する前に、支持基底面を広くし重心を支持基底面内に入れる戦略がとられます。
つまり、バランスを保持するには以下の能力が必要です。
・重心を支持基底面内に留めるようにコントロールする能力(座位・立位など)
・変化する支持基底面内に重心位置を留めるようにコントロールする能力(歩行・階段昇降など)
支持基底面と重心位置
しかし、接地している足底面全てが重心を自由に移動できる支持基底面ということではなく、支持基底面内にも重心を移動できる範囲があります。(機能的支持基底面)
つまり、脳卒中による片麻痺の方などでは両足を接地することが出来ても麻痺側の踏ん張りがきかない場合、麻痺側へ重心を移動させると支持基底面内に重心があるのにもかかわらず転倒してしまいます。
この機能的支持基底面の大きさは一般的に約60歳を境にし、加齢により減少していくとされています。
(若年者では足長の約60%の範囲が機能的支持基底面として活用されているとも言われています)
ICF視点からの立ち位置
バランス能力とはICFのどの位置になるのでしょうか?
Impairment又はActivity Limitationどちらかでバランス能力について挙げている方がいらっしゃると思います。
務め先によってどちらに入るのか異なっているかと思われます。
しかし、バランス能力とはImpairmentとActivity Limitationのどちらでもなく、その中間に位置すると考えられます。
筋力低下・関節可動域制限・高次脳機能障害などの機能障害とバランス能力は並列な関係ではなく、機能障害がバランス能力低下につながると考えられます。(以下図)
また、座位・起立・歩行・階段昇降といった動作とも並列な関係ではなく、バランス能力低下によって日常生活動作が難しくなると考えられます。(以下図)
バランス能力の立ち位置
しかし、機能障害だけでバランス能力は決まるものではありません。
機能障害を有しながらもバランス能力が高い方はいらっしゃいますし、反対に身体機能が高くてもバランスが悪いかたもいらっしゃいます。
バランス能力とは【機能面+身体を扱う能力】ということです。
バランス保持に必要な戦略
立位バランスを維持するために人は3つの戦略を使っています。
一般的に重心移動範囲が少ない時は、基本的に足関節で平衡を維持できます。
しかし重心の移動範囲が大きくなるにつれて足関節戦略だけではバランスを維持できなくなるため、股関節戦略で対処する機会が多くなります。(前後に動揺しやすい不安定な板の上で立っている時のような場合は、足関節戦略でバランスを保持することが難しいため、股関節戦略がとられやすくなります)
高齢者は若年者だと足関節戦略でバランスを保持できるような動揺でも、股関節戦略で対処するようになります。
動揺が大きくなり股関節戦略でもバランスを保持出来なくなると、重心が支持基底面から出ようと方向に足を出しすことで支持基底面を広げてバランスを保持しようとします。
動揺に対してバランスを保持しようとするときに、まず足関節戦略でバランスを保持しようとし、足関節戦略でバランスを保持出来なくなると股関節戦略でバランスを保持しようとし、股関節戦略でもバランスが保持出来なくなるとステップ戦略でバランスを保持しようとします。
1.足関節戦略➡2.股関節戦略➡3.ステップ戦略
ステップ戦略を積極的に行うのは転倒リスクが高いのか?
外乱負荷を与えられた時に、すぐにステップ戦略を用いてバランスを保持しようとする方がいらっしゃいます。
足関節・股関節戦略を先に用いず、バランス保持の最終手段であるステップ戦略を用いることはバランス保持が苦手だということなのでしょうか?
これは若年者であっても足関節戦略でバランス保持出来ないくらいの動揺であれば、ギリギリの股関節戦略よりも楽なステップ戦略が用いることが好まれることもあるのでバランスが悪いとは判断が難しいと言えます。
つまり、ステップ戦略で支持基底面を広げてバランスを保持するほうが様々な観点で有益ならば、ステップ戦略が積極的に用いられます。
ステップ戦略を多用する高齢者はバランス能力が低いと判断するのは、対象者にとって自然な行為なのかを評価する必要があります。
しかし、出来る限り直立姿勢を保つように指示した状態で外乱を与えたときに、足関節・股関節戦略でバランスを保持出来ずステップ戦略ですぐにバランスを保持しようとすることは、足関節・股関節戦略ではバランスを保持出来ず、転倒危険性が高いと評価することも可能になると思われます。