【リハに役立つ】歩行において「膝折れ」はなぜ悪い?

【医療者向け】歩行

臨床における歩行において「膝折れ」はよく見かける跛行の1つです。

歩行観察において「膝折れ」は転倒リスクが伴うから治すべきだと考えている方がほとんどですが、膝折れが生じているが転倒リスクを伴うほどではない膝折れは、なぜ良くないのでしょうか?

歩行のバイオメカニクスを膝折れに注目してお伝えしていきます。

力学的エネルギーについて

歩行というものは、位置エネルギーと運動エネルギーを常に互いに変換しあいながら行っています。

位置エネルギー⇔運動エネルギー

※位置エネルギー:質量×重力×高さ

重力は決まっているため、質量が重く、高い位置にあるほどエネルギーが大きい

 

※運動エネルギー:1/2×質量×速さ²

質量が重く、速いほどエネルギーが大きい

 

エネルギー交換

質量×重力×高さ【位置エネルギー】=1/2×質量×速さ²【運動エネルギー】

質量は同じ物質なのでお互いに相殺するとして、

【重力×高さ=1/2×速さ²】ということになり、エネルギー交換により重力だけで物体は動きます。

 

歩行バイオメカニクス:倒立振り子運動はなぜいいのか?

健常若年者における歩行時の

エネルギー交換率は65%】と言われています。

残りの35%を筋活動により供給しています。

重力の有効利用にすることにより、必要な筋活動を最小限にします。

その重力の有効利用する方法が倒立振り子運動です。

歩行時の重心の上下運動

健常者では通常、両脚支持期で重心位置が最も低くなり、立脚中期で重心位置が最も高くなります。

立脚前半の倒立振り子運動によって両脚支持期➡立脚中期にかけて重心位置が上がってきます。

つまり立脚前半で倒立振り子運動を生み出し重心位置を上げることが、歩行の効率を良くすることにつながります。

しかし、脳卒中患者では麻痺側下肢の立脚期において倒立振り子運動を生み出すことが難しく、重心位置が上がらないため歩行が非効率となりやすく、長距離の歩行が難しくなります。

歩行における膝折れとは?

本来の正常歩行と呼ばれる歩行では初期接地から踵を軸(Heel Rocker)にして下腿・大腿を前方に傾けさせ、重心を上方に持ち上げます。(上図)

この足部を軸にした振り子運動を倒立振り子運動といいます。

 

倒立振り子運動を行う為には初期接地時の筋活動として前脛骨筋の遠心性収縮に加えて大腿四頭筋の遠心性収縮が大切になってきます。

しかし、膝折れが生じると初期接地時に下がった重心位置がさらに下方に変位してしまい重心を持ち上げることが難しくなります。

膝折れは倒立振り子運動によって重心を持ちあげる運動を阻害するため、歩行の力学的エネルギーの観点からエネルギー効率が悪くなります。

そのため、必要以上に筋活動が要求されるので長距離の歩行を行う為に不利になります。

歩行における膝折れは転倒リスクを伴う程ではない場合においても、外出などの長距離歩行を行う場合は出来る限り改善を図る方が良いかと思われます。

歩行における膝折れ:倒立振り子運動を阻害し力学的エネルギーの観点からエネルギー効率が悪くなる

歩行における膝折れの原因

歩行における膝折れとは初期接地時に生じる床反力が膝関節後方を通ることで膝関節屈曲トルクが膝関節伸展筋による膝関節伸展筋トルクを上回ると生じます。

膝折れ:床反力による膝関節屈曲トルク>筋活動による膝関節伸展トルク

そのため、膝折れの原因は床反力による膝関節屈曲トルクが必要以上に大きくなる、もしくは筋活動による膝関節伸展筋力不足の2つに分かれます。

 

膝関節屈曲トルクが大きくなる

歩行においてストライドが大きくなると床反力のベクトル向きの変化から膝関節屈曲トルクが大きくなります。(上図)

そのため遊脚終期におけるハムストリングスの遠心性収縮による下肢振り出し減速が不十分である場合、膝折れのリスクが高くなります。

 

遊脚終期におけるハムストリングスの活動が不足している場合は膝折れのリスクが上がりますが、ハムストリングスは必要以上に活動してしまい、膝関節屈曲位で初期接地を迎えてしまうと膝折れのリスクが高くなります。

また、下肢振り出しがプッシュオフよりも股関節屈曲筋の割合が高いと膝関節は屈曲位となりやすいので、膝折れのリスクが高くなります。

そのため、立脚終期においてTLAを生み出しプッシュオフを作り出すことも大切です。

しかし、膝折れや立脚終期におけるTLAを生み出しにくくし、TLAの不足が膝折れのリスクを高めるのでどっちが根本的な原因か見極める必要があります。

また、体幹前傾であったりすることで重心が後方に変位している場合も膝折れのリスクが高くなるので姿勢評価も欠かせません。

 

膝関節伸展トルクの不足

既に周知の通りだと思いますが、大腿四頭筋の筋力不足は膝関節伸展トルク不足に繋がるので膝折れのリスクが高くなります。

膝関節屈曲トルクは足の接地位置や下肢アライメント・体重によって左右されるので、一概には言えませんがMMT4以下であれば膝折れのリスクがあると思われます。

まとめ

歩行における倒立振子運動は力学的エネルギーの観点から効率よく歩行を行う為に必要不可欠なものです。

しかし、膝折れは初期接地時に下がった重心位置がさらに下げてしまい、倒立振子運動を行うことを難しくします。

そのため、長距離の歩行を行う為には転倒リスクを伴う程ではない膝折れでも改善を図った方がよいと思われます。

また、膝折れは床反力による膝関節屈曲トルクが筋活動による膝関節伸展トルクが上回っている時に生じるため、膝関節屈曲トルクが必要以上に大きいのか、膝関節伸展トルクが不足しているのか動作分析・評価によって精査する必要があります。

ここまで読んで頂きありがとうございました。