【医療者向け】理学療法士が伝える!!下肢筋力と歩行について

【医療者向け】歩行

虚弱な高齢者が歩行能力が低下してしまう原因の1つとして下肢筋力低下は明らかです。

その為、高齢患者の歩行能力低下の原因を分析・訓練方法を決定していく上で筋力評価は欠かせません。

しかし、短距離の歩行はなんとか自立している潜在的な歩行能力の低下や、顕在的な歩行能力の低下があったとしても筋力低下なのか、それ以外なのか判別することは簡単ではありません。

その為、歩行が自立するために下肢筋力が十分な水準を維持しているのか学習し、実際の臨床場面で検証する必要があります。

下肢筋力と歩行能力の関連

ここでお伝えする下肢支持性の代表としては膝伸展筋力値(測定値/体重)です。

下肢筋力と歩行能力の関連というものは、とある筋力の値を境として急に歩行能力が変化することが多いです。

虚弱高齢者の膝伸展筋力と歩行自立度の関連

とある虚弱高齢者を対象にした膝伸展筋力と歩行自立の関連を紹介します。

屋内連続歩行では、膝伸展筋力0.4kg/体重を超えると対象者全員が独歩で自立し、

膝伸展筋力0.25kg/体重未満では自立がほとんど困難でした。

また、0.4~0.25kg/体重の区間では筋力の数値の低下に従い、歩行自立度が低下しました。

短距離の自室内であれば、0.25kg/体重を超えると自立し、0.15kg/体重未満ではわずかな対象者が自立しました。

屋内自立 0.25kg/体重:自立困難 0.4kg/体重:全員自立
短距離自室内自立 0.25kg/体重:ほぼ自立 0.15kg/体重:ほぼ自立困難

下肢筋力と歩行速度の関連

下肢筋力と歩行速度の関連では、0.4kg/体重を下回ってくると筋力低下に伴い、歩行速度・ストライドの低下は著しくなってきます。

その他の研究では、膝伸展筋力が0.4kg/体重付近から膝折れ様の歩容を認めたと報告もある。

多くの研究で、筋力が0.4㎏/体重を下回ると歩行障害が認められると報告されており、

膝関節伸展筋力0.4㎏/体重という値は連続歩行を行うことが出来るかどうかの境目ということになります。

疾患と下肢筋力と歩行能力

ある研究では片麻痺患者において、筋力が0.55㎏/体重を上回れば全症例が歩行自立(杖+装具併用)し、0.3㎏/体重を下回ると歩行自立は限りなく困難であったという報告がある。

大腿骨頸部骨折患者では歩行自立を獲得するためには、同世代の健常者より大きな筋力が必要であったという報告がある。

したがって大腿骨頸部骨折などの運動器疾患を有する症例の健側というものは、杖などの福祉用具を使用したとしても自立するためには高い筋力が必要ということになる。

筋力評価を用いた歩行能力低下の原因分析

ここまで連続歩行を行うために、膝関節伸展筋力0.4㎏/体重、最低限の短距離の歩行を行うために0.25㎏/体重の筋力が必要であることを伝えてきました。

歩行能力の低下が筋力低下かそれ以外か判断するための例

歩行が自立出来ないA・Bさんがいたとします。

Aさん:膝関節伸展筋力0.5㎏/体重

Bさん:膝関節伸展筋力0.15㎏/体重

歩行が自立出来ないAさんは筋力数値は十分な水準に達しているので筋力以外の要素を疑います。

歩行が自立出来ないBさんは筋力数値が十分な水準に達していないので筋力低下を疑います。

(膝関節伸展筋力のみを評価している例だが、実際に必要な筋力は個々で異なり複雑になっている)

Aさんは筋力強化運動を継続的に行っても歩行の自立は難しく、その他の練習が必要になります。

Bさんは筋力強化運動を継続的に行うことで歩行の自立が見込めます。

筋力を数値でみるということは…より詳細な評価を行うことが可能になり、理学療法プログラムの再検討に繋がります。

筋力評価における留意点

下肢支持性と膝関節伸展筋力

加齢や廃用症候群などでは膝関節伸展筋力は下肢支持性を反映する上での指標になる。

しかし、運動麻痺・疼痛などにより個々の筋で能力が大きく異なる場合は、膝関節伸展筋力だけが単独で筋力低下を起こし下肢支持性が低下している可能性があるので、指標として用いることは出来ません。

筋力評価方法

MMTは筋力検査を行う上で簡便に出来る、最も普及している方法です。

MMTは0~5の6つの段階で分かれていますが、等間隔で0~5の段階に分かれているわけではありません。

MMT0~3は程度客観的に評価を行うことが出来ますが4~5は検査者による主観でありGrade4は筋力数値の範囲が非常に広いです。

その為、歩行自立に必要な筋力を有しているのかどうか判断できる精度はありません。

HHD:Hand Held Dynamometerは簡便であり、比較的低価格であり普及している筋力の測定装置です。

HHDを使用することで簡易的に筋力を数値化できます。

しかし、検査者の体格が小さい場合や被験者の体格が大きい場合、固定力が不足する可能性があるので注意が必要です。

筋力低下に対する訓練

筋力低下に対する歩行訓練

膝伸展筋力が0.25㎏/体重以下であり、歩行に必要な筋力が不足している場合、

杖や松葉杖、歩行器などの歩行補助具を使用することが非常に多いと思われます。

筋力低下の著しい時期には体幹を前傾させ、膝関節軸の前方に重心線が通るような代償や、Toe-heelパターンで接地させ、足底屈筋の収縮によって膝折れを防止することも出来ます。

しかし、最終的にたどり着けるであろう歩容を予測し、代償動作が定着しないように注意は必要です。

歩行訓練により筋力強化を促したい場合、歩行距離の延長は過負荷になる可能性があるので短距離程度に留めて、頻度を増大させる形が適切といえます。

筋力強化運動と歩行訓練を併用する場合、筋疲労を回避するためにも筋力強化運動は歩行訓練後に行うことが望ましいといえる。

筋力強化運動

歩行器歩行や杖歩行は低い筋力で歩行が可能になってしまうので歩行訓練方法によっては筋力強化を図ることは難しいです。

また、下肢の筋力が低下している場合、荷重時痛を生じることもあり筋力強化運動との併用も欠かせません。

下肢の筋力強化運動は下肢の支持性を向上させるために、抗重力筋に対して行うことが多い。

筋力低下が著しかったり、相手の筋発揮が上手くいかない場合は椅子からの立ち上がり、立位でつま先立ち(カーフレイズ)などの動作によって多くの筋群を同時に訓練できます。

椅子からの立ち上がり動作では、椅子やベッドの高さを調整することで負荷を調整することが出来ます。

これはおおよそですが、身長の低い症例では20㎝、身長の高い症例では30㎝台からの立ち上がりが出来ることを1つの目標にするといいと思います。

これは、この高さから立ち上がるために必要な膝関節伸展筋力が0.4㎏/体重と言われているからです。

立ち上がり動作訓練ではどちらか片方に依存した立ち上がり動作訓練にならないように、左右対称で行うことに注意しておきましょう。

片足でつま先立ちを行った場合の足底屈筋の負荷は健常者の最大筋力の約34%と言われています。

そのため、両手で平行棒を持たせた状態から始めて、片足のつま先立ちに移行出来れば、十分な水準まで筋力強化が可能です。

立ち上がり動作訓練では膝関節を痛めることもあり、弱化筋を使用しない代償パターンで行うことも少なくありません。

その為、やはり個別で筋力強化運動を行うことも必要です。

股関節外転筋の筋力強化運動として側臥位で股関節外転運動を行うことは非常に多い。

股関節伸展筋の筋力強化運動は腹臥位で股関節伸展運動を行うことも代表方法の1つといえる。

股関節屈曲筋の筋力強化運動は座った状態で股関節屈曲運動を実施した際、股関節外転・伸展・屈曲筋のそれぞれの負荷量は健常者を対象にした場合、

●股関節外転筋:44~65%

●股関節伸展筋:25~39%

●股関節屈曲筋:22~32%

と算出されており、訓練負荷量として40~60%で反復させることが大切ですが、重水の重さを決めます。

特に筋力低下を起こしている症例では負荷は十分に大きいため、重水などの道具を使用せず抗重力運動を行うことで筋力強化を図ることは可能です。

しかし、座った状態で膝関節運動を行った場合の負荷量は、5~9%と報告されており、十分な負荷をかけることが出来ません。

その為、重水などを使用して負荷量を上げることが望ましいと言えます。

負荷量の設定として、1Repetition Maximum(1RM)を測定して行います。

膝伸展筋力の1RM値は体重の約13%上回っていれば、日常生活を行う上で問題ない筋力を有する可能性が高いという報告がある。

例えば、体重60㎏の場合約7.8㎏を意味します。

1RMの約40~60%の負荷で反復運動を行えばいいので、3.1~4.7㎏程度を目安に重錘をつけて反復運動出来ることを目標にすればいいわけです。

1つの指標として、同様に股関節伸展・屈曲筋に対しても3.1㎏の重錘をつけて反復運動を行うことを目標にすればいいと思われます。

まとめ・書籍

ここまで下肢筋力と歩行、筋力強化方法についてお伝えしてきました。

歩行能力低下の大きな原因の代表例が下肢の筋力低下であり、下肢筋力強化運動は歩行能力の再獲得に必要不可欠です。

MMTはセラピストで最も行われている筋力強化運動方法ですが、Grade4~5は検査者の主観でありGrade4範囲が広く下肢筋力が歩行能力に必要な水準に達しているのか判断するために精度が落ちます。

HHDは簡便で比較的低価格であり、普及している筋力測定装置といえます。

HHDを用いた客観的に筋力を評価することは、自立した歩行を行うための筋力を有しているのか判断出来る良質な材料になります。

また、HHDを用いることは必要な負荷量を客観的に評価することも出来ます。

やみくもに筋力強化運動や歩行訓練を実施するのではなく、測定装置を用いて客観的に理学療法プログラムを再構築することは、患者のよりベターな日常生活を取り戻す上で大切なことだと思います。

健康器具による足・腰の屈曲運動方法 筋力強化運動・自力歩行促進 [ 根間一哲 ]

 

【送料無料】 筋機能改善の理学療法とそのメカニズム 理学療法の科学的基礎を求めて / 望月久(理学療法学) 【本】

理学療法(Vol.35 No.11(20) 特集:筋機能2:筋機能障害の理学療法評価の実際