働く環境にもよりますが、リハビリ病院で対象となる患者のほとんどは高齢者だと思われます。
高齢者が転倒による骨折や脳卒中の発症をきっかけに、移動に介助が必要になり活動量が低下することは決して珍しくありません。
特に認知症患者で自身の能力が分かっていない患者の場合、移動の自由を得る為には独歩自立でも転倒リスクの少ないレベルまで引き上げる必要があります。
歩行能力の指標として、歩行速度がリハビリテーションで広く活用されています。
脳卒中患者を対象とした研究では歩行速度は自立歩行の可否に影響を及ぼすことが示されており、歩行速度が遅い者は活動レベルが制限された状態にとどまることが示されています。(ペリー:1995年)
ここでは高齢者における最大歩行速度と独歩自立の関係についてお伝えしていきます。
高齢入院患者における最大歩行速度と独歩自立度
65歳以上の10mにて独歩が可能な患者を対象(N数=262例)にした研究では、1.2m/秒以上という歩行速度から独歩自立度が100%になっています。
歩行速度が0.6m/秒未満であれば、独歩自立度は2.3%であり独歩は出来るが自立はかなり困難であることが分かります。
また、1.00m/秒であっても独歩自立度は72.7%であり全体の約3/4となっています。
横断歩道を渡りきるためには1.0m/秒必要だと言われていますが、独歩自立を目指すための歩行能力の指標として歩行速度1.2m/秒(10m歩行で8.4秒以内)を目指すといいかもしれません。
また、独歩自立群と独歩非自立群で、年齢・身長・体重・最大歩行速度に有意差を認めています。
年齢:若い
伸長:高い
体重:重い
参考文献
歩行速度を上げるには
歩行速度を上げるには、当然ながら推進力を上げる必要があります。
歩行における推進力はプッシュオフで生み出すことが有名ですが、歩行推進力を生み出すプッシュオフについて詳細にお伝えしていきます。
プッシュオフにおいて推進力を生み出す為に、足関節底屈モーメントよりもTLAが重要だと言われています。
TLA:立脚側大転子から床への垂線と大転子と第5中足骨を結ぶ線(下図)
さらに!!
トレーニングによる推進力の改善程度に対する貢献度が4倍という研究結果
そのため、推進力を生み出す為にはTLAが非常に重要というわけです。
もし、TLAが小さいと(下図)
歩行において立脚終期からTLAを生み出す為には、それ相応の【関節可動域の確保】や【床反力から生じるモーメントに対抗するだけの筋力】が必要であり、さらにバランス能力が必要になります。
歩行速度を上げるためには、それ相応の関節可動域制限・筋力・バランス能力などが必要であり、歩行速度はそれらの能力を示す指標なのかもしれません。
そのため、歩行速度は歩行自立度に関連があると思われます。
まとめ
高齢入院患者を対象とした最大歩行速度と独歩自立度の関連をお伝えしました。
高齢入院患者を対象とした研究では1.2m/秒(10m歩行:8.4秒以内)になると独歩自立が100%になっていました。
しかし、紹介した研究では認知症を有するものは除外しているので、認知面で行動予測が出来ない場合の自立はまた検討が必要だと思われます。
歩行速度を上げるためにはTLAが重要な要素です。
しかし、TLAを生み出す為には床反力トルクが大きくなるため、それに対応するだけの筋力が必要になります。
歩行速度というものは筋力や関節可動域・バランス能力などの総評としての1つの指標なのかもしれません。
ここまで読んで頂きありがとうございました。