骨・関節・骨格筋・末梢神経などどいった身体運動に関わる末梢組織を総称して運動器と言います。
運動器としての役割を発揮する為にはそれぞれの独自の機能がある末梢組織が連動する必要があります。
しかし、痛みなどにより本来の機能が発揮出来ないことがあります。
腰痛・肩こり・手足の関節の痛みは非常に多くの人が経験し、このような痛みが発生すると身体運動そのものの遂行が困難になります。
身体運動の困難は、さらに筋力低下や関節可動域制限・疼痛などの新たな運動器障害の発生や進行につながり、さらなる運動器の機能障害を招いてしまうことがあります。
その為、リハビリテーション医療に関わるものには運動器の適切な治療が要求され、その基礎知識は欠かせません。
ここでは皮膚の機能解剖についてお伝えしていきます。
皮膚の機能解剖
主に皮膚は外界からの刺激に対する保護・体温調節・感覚(触覚・圧覚・温度覚・痛覚)の受容やビタミンDの前駆物質の産生・種々の分泌・吸収、免疫学的防御、創傷治癒などがあげられます。
皮膚は表層から表皮・真皮・皮下組織に区分でき、解剖的・機能的に異なります。
表皮
表皮は表層から角質層・顆粒層・有棘層・基底層に区分でき、真皮と強く結合しています。
表皮の各層の大部分はケラチノサイトで構成され、新しい細胞は基底層で作られ少しずつ変化しながら表層に押し上げられます。
表皮には毛細血管はないため、浅い表皮剥離では出血が生じません。
表皮の角質層はケラチンと呼ばれるたんぱく質を含む核のない扁平な死んだ細胞から構成されます。
角質層は部位によって厚さが異なり、最も厚い足底では1㎜以上あります。
次の顆粒層に存在するケラチノサイトは細胞内のケラチン量は多いものの、核や細胞小器官は崩壊しています。
また、細胞の内容物は細胞外に放出され、これによって細胞と細胞の間に脂質層を形成し、皮膚における透過バリアとして機能しています。
次の有棘層は約5個分の細胞の厚みがあり、細胞の表面からトゲが出ているようにみえることが名称の由来です。
トゲ状の細胞質突起には接着斑(デスモソーム)があり、細胞どうしが強固に結びつています。
最後に最深部にある基底層は細胞の分裂・増殖が盛んであり、ここで誕生した細胞が表層に押し上げられながら徐々に分化し、表皮を構成する大部分の細胞となります。
基底層で作られる細胞は多分化能をもつ幹細胞の性質を有していることから、基底層は胚芽層と呼ばれることがあります。
また基底層にはメラチノサイトが存在し、これが紫外線によって刺激を受けるとメラニン色素が合成されます。
メラチノサイトは表皮表層に向かって突起を伸ばし、メラニン色素顆粒を送り込むことによって色素沈着が生じ、皮膚の色を褐色に変化させます。
真皮
真皮は大量の水分を吸着したプロテオグリカンと呼ばれる基質の中に線維成分と細胞成分が存在する形態となっており、線維成分としてはコラーゲン線維とエラスチン線維が含まれます。
細胞成分としてはプロテオグリカンやコラーゲン線維などを合成する結合組織固有の細胞である線維芽細胞のほかに、組織球やリンパ球、肥満細胞等が存在します。
また毛細血管網があり、この毛細血管網は真皮の下層を構成している皮下組織を通ってきた血管が表層へ向かって網状に広がったものです。
線維成分:コラーゲン線維(密性結合組織)・エラスチン線維
細胞成分:線維芽細胞・リンパ球・組織球・再肥満細胞など
毛細血管網:皮下組織から表層に広がってきた網状の血管
皮下組織
真皮と筋膜(浅筋膜)の間には皮下組織があり、結合組織によって構成されます。
真皮のコラーゲン線維は密性結合組織となっていましたが、皮下組織のコラーゲン線維は粗な構成となっており疎性結合組織となっています。
また、皮下組織の大部分はプロテオグリカンと脂肪組織によって満たされています。
プロテオグリカンと肥満細胞によって満たされているので、クッション性を高くすることで外部からの物理的刺激を緩和することができます。
また、脂肪組織は体温保持やホルモンを分泌したりする役割があり、身体に欠かせないものとなっています。
皮下組織は血管・リンパ管・神経の通り道です。
また血管やリンパ管によって過剰に溜まった水分が排出され、安定した水分量を維持しています。
感覚受容器としての役割
皮膚には触覚・圧覚や温度覚(温覚や冷覚)、痛覚を感知する多数の受容器が存在し、受容器によって感知された色々な感覚刺激は末梢神経(求心性神経)、脊髄後角を経て大脳皮質感覚野で知覚されます。
形態学的分類 | 有髄・無髄線維 | 機能 | 感覚神経の分類 | 直径(um) | 伝達速度(m/s) | ||
求心性神経 | 遠心性神経 | ||||||
A | α | 有髄 | 固有知覚 | 運動神経(骨格筋:錘外筋線維) | Ⅰa・Ⅰb | 12~20 | 70~120 |
β | 触覚・圧覚 | Ⅱ | 5~12 | 30~70 | |||
γ | 運動神経(骨格筋:錘内筋線維) | 3~6 | 15~30 | ||||
δ | 痛覚・温度覚 | Ⅲ | 2~5 | 12~30 | |||
B | 交感神経節前線維 | <3 | 3~5 | ||||
C | 無髄 | 痛覚・温度覚 | 交感神経節後線維 | Ⅳ | 0.3~1.5 | 0.5~2.3 |
触圧覚
触覚・圧覚は周知の通り、皮膚が物に触れたり、圧迫されるといった機械的刺激によって生じます。
触覚・圧覚を受容する受容器は身体の部位によって密度が異なり、指先や口周りでは1㎝²あたり100個以上存在しますが、体幹部や四肢の近位部では11~13個程度であり、機械的刺激に対して末梢部分が敏感です。
その代表が脳の小人(ホムンクルス)です。感覚野のホムンクルスは顔や指先が大きく、敏感であることが分かります。
触覚・圧覚にはマイスナー小体・パチニ小体・メンケル触盤・ルフィニ小体と呼ばれる受容器が関与し、Aδ線維(有髄線維)によって脊髄後角に伝えられます。
マイスナー小体
マイスナー小体は真皮の表層部に存在し、末梢神経終末が小包に包まれた構造をしています。
マイスナー小体は触られた刺激、点字のようなわずかな盛り上がりなどの検出に優れています。
しかし、持続的な圧力にはすぐに順応するため、反応しなくなるという特徴があります。
パチニ小体
パチニ小体は無毛部・有毛部問わず、真皮の下層や皮下組織に存在し、末梢神経終末を数十層の層板からなるカプセルが取り囲む構造をしています。
パチニ小体は非常に感度がよく、皮膚への触覚を最初に感知するといわれており、触られた時の微細な振動を増幅させることによって感知していると考えられています。
また刺激の変化を選択的に伝えることができるといわれているので、振動数が高い刺激に対する感度に対して特に優れていると言われています。
メンケル触盤
表皮の基底層に存在し、末梢神経終末とメンケル細胞が結合した構造を呈しています。
メンケル触盤は垂直方向の変形、すなわち圧による変化によく反応し皮膚に接触した物体の材質や形を検出することに優れています。
ルフィニ小体
真皮の下層に存在し、末梢神経終末が小包に包まれた構造をしており、紡錘形の形をしています。
ルフィニ小体は局所的な圧迫や皮膚が引っ張られて変形するのを感知します。
毛細受容器
毛根には末梢神経終末が巻き付いており、毛包受容器といいます。
毛包受容器は毛に何かが触れて傾くとすぐに反応します。
温度覚
温度の感覚点には温点と冷点があり、1㎝²あたり温点は1~4個、冷点は3~15個程度存在します。
温度受容器は組織局所の温度と温度の変化を感知しますが、温受容器と冷受容器が感知します。
温受容器と冷受容器とも自由神経終末にあたり、有髄線維のAδ線維・無髄線維のC線維によって脊髄後角に刺激が伝えられます。
温受容器・冷受容器はそれぞれ最適温度が異なり、温受容器と冷受容器の間の32℃程度で外界温を感じなくなります。
45℃以上の高温・10℃以下の低温では温・冷受容器は興奮せず、痛覚受容器が興奮します。
痛覚
痛点は全身に200万~400万個、1cm²あたり50~350個存在するとされ、感覚点の中で最も多いです。
また、触圧点と異なり、鼻や足裏より体幹部や四肢の近位部のほうが密度が高くなっています。
痛覚受容器は侵害受容器とも呼ばれ、先ほどもお伝えしましたが温・冷受容器と同様に自由神経終末にあたり、Aδ線維とC線維によって脊髄後角に刺激が伝えられます。
自由神経終末は皮下組織~真皮・表皮の基底層まで分布が確認されています。
基底層より表層では自由神経終末に分布はないので、アルコール綿で皮膚をこするような刺激では痛みとして感知されません。
侵害受容器は、①高閾値機械受容器・②熱侵害受容器・③冷侵害受容器・④ポリモーダル受容器の4つに分類されます。
受容器名 | 特徴 |
①高閾値機械受容器 | 機械的刺激の中で最も強い圧迫や切る・刺すなどどいった高閾値で、生体にとって侵害域となるものにのも反応します。 |
②熱刺激受容器 | 43℃以上の熱刺激に反応する受容器 |
③冷侵害受容器 | 15℃以下の冷刺激に反応する受容器 |
④ポリモーダル受容器 | ほぼ全ての刺激に反応(低閾値~高閾値の機械的刺激、熱刺激、様々な侵害性の化学的刺激すべてに反応)します。 |
侵害受容器は強い圧迫・伸張あるいは切る・刺すなどいった高閾値の機械刺激(上①)に反応するほかに、43℃以上の熱刺激や15℃以下の冷刺激(上②・③)、K⁺・ATP・BK(ブラジキニン)などといった化学物質に反応します。(上④)