骨格筋の伸長性は筋線維と筋膜が関わってきますが、そのなかでも不動による骨格筋の伸長性の変化に関しては筋膜の影響が大きいと考えられる。
さらに筋膜を構成するコラーゲン線維は張力に対して強い抵抗を持っており、不動によるコラーゲン線維の変化が非常に重要になってくると予想されます。
そんな筋膜が不動によってどのように変化していくのかお伝えしていきます。
コラーゲン含有量の変化
組織内のコラーゲン含有量はその伸張性を規定する要因の1つと考えることができ、病的に組織内のコラーゲン含有量が増加すると組織の伸張性低下が惹起されます。
このような病態を【線維化】と言われています。
足関節を最大底屈位で不動化したラットのヒラメ筋は、1・2週間でコラーゲン含有量が増加し、筋周膜・筋内膜の肥厚が認められています。
実際に重篤な拘縮を呈した症例では、本来筋線維が存在する部分に緻密なコラーゲン線維の増生が認められています。
また、痙直型脳性麻痺患者を対象にMASによって痙縮を評価しながら、ヒドロキシプロリン(コラーゲン特有の構成アミノ酸)の含有量を評価すると、痙縮が重度であるほどヒドロキシプロリンの含有量が増加していることが分かっており、骨格筋の線維化が進んでいることが分かっています。
つまり、ギプス固定・痙縮などによる骨格筋の不動では筋膜のコラーゲン線維の含有量が増加し線維化を助長することで、拘縮の発生の要因の1つとなっていることが予想されます。
コラーゲンタイプの変化
筋膜を構成するコラーゲンの多くは、タイプⅠ・Ⅲでありその割合は筋膜の種類によって異なります。
筋上膜・筋周膜はタイプⅠコラーゲンが多いのに対し、筋内膜は筋の収縮・弛緩・伸張に対応するため柔軟性に富んでいるタイプⅢコラーゲンの組織含有率が高くなっています。
不動により筋周膜・筋内膜のタイプⅠ・Ⅲコラーゲンが有意に増加することが分かっています。
その中でもタイプⅠコラーゲンは不動4週目で有意に増加した後プラトーになり、タイプⅢコラーゲンは1週目から増加した後概ねプラトーになっています。
特にタイプⅠコラーゲンは硬度が要求される靭帯や腱などに多く含まれ、そのタイプⅠコラーゲンが筋内膜で有意に増加するということは骨格筋の伸長性低下に大きく関わると考えられます。
コラーゲン線維の配列変化
筋膜を構成するコラーゲンは弛緩・伸張された際に配列を変化させることで、骨格筋の十分な可動性を生み出しています。
しかし、骨格筋が不動状態にさらされるとコラーゲン線維の円滑な配列変化が阻害され、骨格筋の伸長性低下につながります。
上記先行研究ではラットの足関節を最大底屈位で1・2・4・8・12週間ギプスで不動化し、不動期間に伴う拘縮の進行状況と弛緩位で不動化した際のヒラメ筋の筋内膜コラーゲン線維の形態変化を検索しています。
足関節最大背屈可動域は対照群(無処置)と比較した結果以下の通りになっています。
●不動1週後:21.3%
●不動2週後:31.4%
●不動4週後:53.8%
●不動8週後:62.9%
●不動12週後:68.4%
筋内膜のコラーゲン線維網の形態は、対照群(無処置)では筋線維の長軸方向に対して一部横走するコラーゲン線維があるものの、多くは縦走するコラーゲン線維によって構成されています。
多くのコラーゲン線維は長軸方向に対して0~60°の範囲で走行しています。
不動に伴う筋内膜のコラーゲン線維網の形態は以下の通りです。
●不動1週後:21.3%➡対照群と著名な変化なし
●不動2週後:31.4%➡対照群と著明な変化なし
●不動4週後:53.8%➡横走するコラーゲン線維の増加
●不動8週後:62.9%➡横走するコラーゲン線維の増加
●不動12週後:68.4%➡横走するコラーゲン線維の増加
不動1・2週後は対照群と大差ないが、不動4週後以降は伸長しているにもかかわらず、筋内膜のコラーゲン線維配列は組織が弛緩している状態と類似しているとされています。
4週後以降に認められるコラーゲンの配列変化は筋内膜の伸張性低下を示唆しています。
コラーゲン架橋の変化
元々コラーゲン線維は成熟とともにコラーゲン分子末端に架橋が生成されるため、コラーゲン線維の強さや硬さが増していきます。
また、加齢によってもコラーゲン線維では架橋結合が生じ、この架橋結合は分子末端のみでなくランダムに生成され老化架橋とも呼ばれています。
この老化架橋によって高齢者では元々コラーゲン線維を多く含む組織では柔軟性が乏しくなってくると言えます。
不動においても骨格筋内のコラーゲン線維では老化架橋に類似した架橋結合が生じると考えられており、骨格筋の伸長性低下に関わる可能性があります。
筋膜の変化による骨格筋伸張性の影響
筋膜を構成しているコラーゲンは、骨格筋の不動により量・質的に変化し伸張性低下に大きく関与します。
マウスではコラーゲン線維の半減期は約300日と非常に長く、完全にコラーゲン線維まで踏まえた拘縮の改善は回復期リハの期間では足りないということです。
そのため、コラーゲン線維の器質的変化に伴う拘縮をいかに予防することが重要であり、このことを踏まえてリハビリを行っていく努力が求められると言えます。
ここまで読んで頂きありがとうございました。