元々人は元をたどれば猿であり、猿の前は四足歩行で移動していました。
しかし、進化することで二足歩行が可能となりましたが、なぜ二足歩行を獲得するに至ったのでしょうか?
近年、1つの芸としてニホンザルが二足で歩いている姿を見かけるが人のそれとは違うことは明らかである。
具体的にニホンザルと人の歩き方の違いは歩行の知識を深めることに繋がります。
よければ下記記事:歩行のバイオメカニクスも参考にしてみてください。
サルとヒトの二足歩行運動
※上図:ニホンザルの二足歩行分析とシミュレーションから探る直立二足歩行の起源と進化:荻 原 直 道 から改変引用
上図ではニホンザルの下肢(股関節・膝関節)は常に屈曲位となっています。
対してヒトは股関節・膝関節・足関節の屈曲と伸展が歩行周期中にみられ、ダブルニーアクションによる歩行時の衝撃吸収や重心の持ち上げなど移動に適した効率の良い歩行となっています。
ニホンザルの歩行では下肢(股関節・膝関節)が常に屈曲位であるため、衝撃吸収や重心の持ち上げが困難であり移動としては不利な歩行となっています。
また、サルの歩行は人に比べて足関節の角度が大きく、接地時・離床時に足関節が大きく底屈していることが分かります。
歩行時の床反力
※上図:ニホンザルの二足歩行分析とシミュレーションから探る直立二足歩行の起源と進化:荻 原 直 道 から改変引用
サルの歩行時の床反力は初期接地がピークであり、その後は下がっていく一方です。
対してヒトは初期接地時に一度ピークを迎え、その後は倒立振り子運動により重心を持ち上げることで位置エネルギーを蓄えながら立脚中期へ移行します。
その後、倒立振り子運動で持ち上げた重心を下行しながら立脚中期から立脚終期に移行します。
つまり位置エネルギーを運動エネルギーに変換しながら立脚終期に移行していきます。
重心位置が下行しながら遊脚前期に移行し再び床反力がピークとなります
しかしニホンザルでは床反力が立脚期前半のみであり、その後は下降していく一方なので蹴り出しによる
推進力が弱いことが分かります。
歩行時の重心運動のメカニクス
歩行とは床反力から生じる重心移動を常にコントロールし移動する現象です。
人の床反力は立脚において二峰性となっており、運動エネルギー⇔位置エネルギーを変換させながら移動しています。
先ほどお伝えしましたが、ヒトの歩行では両脚支持期で床反力が大きくなり重心位置が低くなっています。
立脚中期では床反力は最も小さくなり、重心位置が最も高い位置にあります。
重心位置の上下運動により位置エネルギーと運動エネルギーを常に変換しながら歩行を行います、このエネルギー相互変換により最大約70%の力学的エネルギーを回収・再利用出来ていると言われており、残りの30%を筋活動で補っています。
サルの歩行では床反力が一峰性となっており位置エネルギーと運動エネルギーの相互変換が出来ておらず、力学的エネルギーの回収・再利用率が人に比べて低いことが分かります。
移動仕事率と走行運動
移動仕事率とは歩行において単位質量・単位移動距離当たりの代謝エネルギー消費量のことを指します。
つまり、【移動の効率】を表します。
サルでは歩行速度が増大するにつれて単調に移動仕事率は低下していくことが分かっています。
ヒトでは快適速度ど最も移動仕事率が高く、快適速度から歩行速度が減少・増大どちらにおいても移動仕事率が低下していくことが分かっており、快適速度の歩行が最も力学的エネルギーの回収・再利用に優れていることを指します。
またヒトの走行運動では歩行とは異なり立脚中期で最も重心位置が低く、空中期で最も高くなります。
また進行速度も立脚中期で最も遅く、空中期でも最も速くなります。
つまり、歩行では位置エネルギーと運動エネルギーの相互変換が行われますが、走行では位置エネルギーと運動エネルギーが同相で推移していくこととなります。
しかし走行運動は、力学エネルギーが脚の腱などに弾性要素に保存され再利用されることで,移動効率の向上が図られています。
歩行における筋骨格系の構造
ここまでサルとヒトの歩行の違いをバイオメカニクス的な視点でお伝えしてきました。
ヒトは初期接地に床反力がピークとなり、その衝撃を緩和するために膝関節を軽度屈曲させます。
そして軽度屈曲した膝関節が踵を軸にして伸展を伴いながら立脚中期へ移行します。
そうすることで倒立振り子運動により重心を持ち上げながら立脚は進んでいくので床反力は小さくなり、立脚終期で再び大きくなります。
しかしサルは床反力は立脚前半の段階でピークとなり、その後は下降していく一方です。
下肢は常に屈曲位であるため倒立振り子運動のような重心の持ち上げを行うことが出来ません。
そのため位置エネルギーを運動エネルギーに変換させながら蹴り出しを行うことが出来ません。
これはサルは元々四足歩行であることが関係しています。
元々四足歩行であったサルが立位姿勢をとると股関節屈曲筋群は伸張位になります。
そのため歩行を行うと股関節屈曲筋が制限となり、下肢を伸展させることが難しく下肢は常に屈曲位となります。
歩行における股関節屈曲筋群の代表は腸腰筋・大腿直筋・大腿筋膜張筋であり、立脚期において柔軟性・筋力が欠かせない筋となっています。
立脚期において下肢を伸展させることは倒立振り子運動を生み出し、歩行の力学的エネルギーの効率を良くする上で欠かせませんがサルの下肢は立位姿勢をとることで股関節屈曲筋の制限により下肢が屈曲位となり、効率的な歩行が困難ということです。
また、ヒトの足部はアライメントにより柔軟性を高めたり、剛性を高めたりすることが出来ます。
歩行においては初期接地では柔軟性を高め衝撃吸収の役割を果たしますが、立脚後半に移行するにつれてアキレス腱・足底腱膜が伸張され剛性を高めることで足部全体を強固なテコに変え、腓腹筋などの足関節底屈筋群などの力を安定して伝導するようになっています。
しかしサルの足部は、柔軟な構造体であり、初期接地からから [midtarsal break] と呼ばれる足部の中折れが生じ蹴り出し時に足部はほぼ垂直位となります。
その結果、大腿部の空間姿勢が同じとしても下腿部は相対的に水平になり、膝関節は屈曲位となります。
サルの歩行をヒトに近づけると…
上記のように腸腰筋伸張性は歩行において下肢を伸展させる為に重要であることが分かります。
股関節屈曲筋は腸腰筋・大腿直筋・大腿筋膜張筋がありますが、大腿直筋・大腿筋膜張筋は膝関節を跨ぐ二関節筋ですが、腸腰筋は股関節のみを跨ぐ筋になります。
歩行において腸腰筋の伸張性は立脚期の下肢伸展、つまり倒立振り子運動や立脚終期でTLAを生み出してから蹴り出しを行う上で欠かせません。
また…
初期接地に足底接地ではなく踵から接地しヒールロッカー➡アンクルロッカーに移行していく過程は、歩行において余計なブレーキをかけずに立脚期へ移行する上で大切なポイントになってきます。
ヒールロッカーは倒立振り子運動を生み出していく上で欠かせません。詳細は下記記事を参考にしてみてください。
参考文献
ニホンザルの二足歩行分析とシミュレーションから探る直立二足歩行の起源と進化:荻 原 直 道
ここまで読んで頂きありがとうございました。