【理学療法士が伝える】脳機能の身体所有感とは

【医療者向け】脳機能

この記事を参考にする前にぜひ、下記記事を参考にしてください。

身体所有感とは?

身体所有感とは「この身体は私の身体である」という自己の身体に関する意識のことです。
身体所有感は下頭頂小葉(角回・縁上回)で視覚や触覚などの異なる感覚の統合により起こることが示されています。
視覚・体性感覚の障害、下頭頂小葉の損傷による感覚統合の障害は身体所有感の損失に繋がり、身体所有感の損失は身体失認・身体パラフレニア・複合性局所疼痛症候群(CRPS)・余剰幻肢で確認されます。
※身体失認:自分自身の身体自身について認知の誤りを呈する症状。身体認識の基礎構造である身体図式の障害により、様々な症状を呈します。
※身体パラフレニア:「自分の手ではない」と麻痺肢を自分のものと認めない。「妹の手」・「先生の手」など他人のものと主張するなどの自分の肢の自己帰属を否定する言動や、自分の手は「家に置いてある」・「ベッドの下に置いてある」と作話的になることがありまあす。
※複合性局所疼痛症候群:有痛性肩関節運動障害と同時に同側の手の腫脹を伴っていることが特徴であり、臨床症状は多彩であり、発生メカニズムの詳細は分かっていない状態。脳卒中発症後の割合は10~30%であり、脳卒中発症後6ヶ月以内に発症することが多い。
身体所有感を得るには視覚と体性感覚情報が時間的・空間的に一致することが必要条件です。
ラバーハンド実験が有名であり、その研究からも証明されています。
また、ラバーハンド実験から身体所有感は頭頂葉の中でも頭頂間溝下頭頂小葉が身体の全体像の認識に関わっていることを示す重要な結果となりました。
脳の左右半球をみてみると、右半球の側頭-頭頂接合部(TPJ)の機能をγTMSを用いて抑制するようにした後では、本物の手には到底見えないラバーハンド(手とは想像つかない物体)に対して身体所有感の錯覚が生じやすくなることが分かっています。
つまり、右半球の側頭-頭頂接合部は自己と他者を弁別する機能に関する役割を担っていることが示唆されています。
ラバーハンド錯覚が生じている(ラバーハンドを自分の手と錯覚している)側の手のみ、皮膚温が低下することが確認されています。
すなわち、身体所有感が低下すると体温調整が困難になるということです。
この背景には身体所有感の変化は自律神経系に影響を与えるということです。
また、自己の脈拍のリズムと目の前のラバーハンドが赤くなるタイミングが一致するとラバーハンド錯覚が生じる(ラバーハンドを自分の手と錯覚する)ことが示されており、身体所有感の生み出すには内受容感覚と外受容感覚との一致も要因であるといえます。

身体所有感の階層性

身体所有感は知覚的表象・命題的表象・メタ表象の3階層に分かれます。(下図)

以下は上の図をイメージして上の階層から記載していきます

メタ表象

一番上の層はメタ表象と呼ばれ、この階層は他者の感情を読みとったり、信念を理解したりする機能である心の理論や、社会的規範などの他者・社会の影響をトップダウン的な意識によって受けるということです。
メタとはつまり自分自身を客観視するということです。(ex周囲の人間関係から・社会的な立場から・家庭内の立場など)
同じ境遇でも、自分自身をどのように客観視するのかは人それぞれであり、認識が異なります。
その背景に以下の研究があります。
自己の身体が2倍に見える鏡を利用してミラー錯覚を起こし、自己の身体に痛み刺激を与えて痛みの閾値を調べた研究では痛みの閾値が増加する者(痛みを感じにくくなる)痛みの閾値が低下する者(痛みを感じやすくなる)の2タイプに分かれました。
痛みの閾値が増加する者では自己の身体が2倍に錯覚されることに対して不快な情動は生じず、特に大きく錯覚されることを何とも思わないといった意見が大半でした。
痛みの閾値が低下する者では自己の身体が大きく錯覚することに対して不快な情動が増し、自己の身体に対してネガティブな観念をもっていることに関連があることが分かりました。
このことから、自己の身体に対して、社会的な視点でネガティブな感情をもっているほど、自己の身体を大きく錯覚した時は不快情動が増し、痛みを感じやすくなるということです。
以上のことから、自己の身体の意識・認識には社会的な価値観を伴うメタ表象がトップダウン的に影響するということが明確になりました。

命題的表象

文脈思考など、その個人がもつトップダウン的な意識によって干渉されるというものであり、知覚の延長による身体イメージの変化が命題的表象によって起こるものです。
※知覚の延長:車の運転中の車幅感覚や杖を突いた時の床の知覚など自分の身体を延長させて生じる知覚
左上図は4つのラバーハンドの絵ですが、それぞれに身体所有感の錯覚を惹起させ、実際に痛み刺激を与えると傷ついたラバーハンドに身体所有感の錯覚が生じている時に痛み閾値が低下しいていることが明らかにされています。
つまり、傷ついた身体を見て、自己の身体のように錯覚した場合にはより痛みを感じやすくなるということであり、今までの経験・知識からの文脈・思考などが影響を与えているということになります。
右上図は発疹を起こしている手ですが、自分の手が赤くなっていると錯覚している時は「炎症」・「異常」などのイメージが想起されており、熱刺激を与えるとより痛みを感じやすくなることが分かっています。
手が赤くなっている=異常・炎症というイメージが熱を与えられると痛みを感じるという考えです。
これはほとんどの人が共通して持っているイメージです。
こうした命題的表象に基づいた身体の変化はトップダウンな解釈が関与しており、実際の臨床的に説明できない症状には、このようなトップダウン的な身体イメージが関わっていることが推察されます。

知覚的表象

視覚・体性感覚フィードバック、身体図式によって生成されるものであり、発達段階で初期に獲得する階層です。
自己の身体に向けて自己の身体が接触する「セルフタッチ」などを通じて獲得しているレベルです。
視覚―体性感覚の同期から得られる身体所有感に相当する。

 

まとめ

身体所有感とは視覚・体性感覚といった異なる感覚が下頭頂小葉(縁上回・角回)で統合されることで生じます。

しかし、単なる視覚・体性感覚の統合によって生じるものではなく、命題的・メタ表象的な意味的・言語的関係の認識という社会認知プロセスを経てトップダウン的に装飾されます。

リハビリテーションにおいて身体所有感を評価・生成するためには、視覚ー体性感覚を統合させるプロセスに加えて、言語を用いた自己の身体に対する認識もアセスメント・治療を行うプロセスが必要になります。

 

ここまで読んで頂きありがとうございました。