日本は飽食の時代となり生活習慣病にかかる方が増えてきました。
脳卒中についても日々の生活習慣が発症に影響することは周知に通りです。
脳卒中についてなんとなく知っているけど、詳しく知っている人少ないと思います。
ここでは脳卒中の症状について理学療法士(リハビリのプロ)の視点からお伝えしていきます。
脳卒中とは
脳卒中とは一般的な言い方であり、正式な医学用語では脳血管障害といいます。
脳は感情や思考、言語、記憶、注意、運動や学習といった様々な機能を持っています。
脳血管障害は脳の動脈が詰まってしまったり(脳梗塞)、脳の血管が破れてしまう(脳出血)ことで、脳に十分な酸素や栄養がいきわたらなくなったり、出血により脳を圧迫し、様々な障害をきたしてしまいます。
脳卒中(脳血管障害)は、は平成26年度の調査では患者数は約117万9000人と言われています。
脳卒中は死因は現在4位となっていますが、これは医学の進歩により亡くなる患者さんが減っている為だと思われています。
しかし脳卒中の生存率は上がっているものの、寝たきりなってしまった原因第1位になっています。
脳卒中で亡くなる方は減っているものの、寝たきりの原因第1位となっていますので怖い病気であることに変わりはありません。
そんな脳卒中になってしまう原因とはなんなのでしょうか?
脳卒中の原因とは?
脳卒中(脳血管障害)は、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの総称です。
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの種類によって微妙に原因が異なってきます。
脳梗塞の原因
脳梗塞の原因になってしまうのは、脳血管内にプラークと呼ばれる異常な組織が出来てしまうことが1つの原因です。
プラークは血液中の余分なコレステロールが最終的に血管内で出来てしまい、血液の通り道を狭くしてしまいます。
最後にはプラークが脳の血管を詰まらせて、脳へ十分な血液を送ることが出来なくなり脳梗塞になってしまいます。
また、心臓の機能が弱い人や重度の不整脈がある人は、心臓内で出来た血栓(血の結晶の塊)が脳に送られてしまい、脳の血管を詰まらせてしまうことで脳梗塞として発症します。
脳出血の原因
脳出血は加齢や動脈硬化などによる脳血管の弾力性が失われた状態で、高血圧などにより過度に脳血管に圧力が加わり脳血管が破れてしまうことで発症します。
脳卒中は一般的に発症される方は高齢者が多いですが、脳動静脈奇形という特殊な疾患を有している場合、20代で脳出血が発症するケースもあります。
くも膜下出血
脳の周囲にはくも膜という脳を守るための膜があります。
そのくも膜で出血を起こしたものをくも膜下出血といいます。
強く頭をぶつけたりなどの衝撃で発症したり、高血圧などにより過剰に血管に圧力が加わることで発症します。
意外にくも膜下出血は40代に非常に多い疾患です。
脳卒中の症状にはどんなものがある?
脳卒中には発症原因や発生個所、発症後の対応によって症状は様々であり、症状の程度も異なってきます。
運動麻痺
脳卒中により片側半身又は、発症箇所・障害範囲によっては両側麻痺になり身体が思うように動かなくなります。
身体が動かない運動麻痺の程度は様々であり、ほとんど症状が無い人~重症な人で手足が全く動かなくなります。
手足が全く動かないことは、寝たきりの大きな原因になってしまいます。
運動麻痺についてもっと詳しくみていくと…
1:手足が思うように動かない(器用さが失われる)もの
2:手足(筋肉)に力が出にくい
上記の1・2のそれぞれの症状があります。
上記1の運動麻痺はリハビリ業界では6段階に分かれています。
2:少し筋肉が活動しているのが分かる
3:手や足全体を上げる・曲げる・伸ばすといった大雑把な動きしかできない
4:少し細かい動きが出来る
5:細かい動きはある程度できるが、やや支障をきたすレベル
6:ほぼ症状無し
当然ながら6に行くほど、予後は良くなります。
発症部位・範囲や年齢、リハビリ内容などにより個人差がありますが、ある程度回復する可能性はあります。
リハビリを行った方が回復が早く、より回復しやすいことは言うまでもありません。
しかし1➡5や6、2➡5や6といった大きな回復は可能性は0ではありませんが、正直なところ難しいと言えます。
感覚麻痺
運動麻痺に並行して感覚麻痺が生じることも珍しくありません。
感覚麻痺とは触られた感覚などが鈍くなったり・全く感じなくなったりします。
普段歩いたり、物を使用すると時は感覚を頼りにしています。
そのその感覚が鈍くなったり、全く感じなくなるということは想像以上に不便です。
足の感覚が全くなくなりことで歩くときにふらつてしまい、1人で歩くことが出来なくなることも珍しくありません。
また、火傷やケガをしても気づきにくかったり、気づかなかったりすると重症化してしまうこともあります。
車椅子の車輪に手が挟まった状態に気づかず、車いすを足で操作し手が大けがをしてしまうこともあります。
異常感覚
脳卒中になることで感覚が麻痺するだけでなく、本来は無かった感覚(主に痺れ)が出ることもあります。
手足が痺れてしまうということで、上手く手足が使えなくなることもあります。
また、異常な感覚には痛みもあります。
痛みが出る原因がないのに、脳卒中が原因で脳が勝手に痛みを感じてしまいます。
代表的な痛みの異常感覚は視床に脳卒中が発症した場合に起こる視床痛が有名です。
何もしていないのに痛みを感じる、手足を少し動かしただけで激痛が走ることもあります。
筋緊張亢進
普段私たちの身体は脳から出た指令によって、筋肉を使うことで身体を動かしています。
しかし、脳は筋肉を動かすことだけなく筋肉の活動が必要以上に頑張りすぎないようにコントロールもしています。
脳卒中による筋緊張亢進とは、脳にダメージを受けることで筋の活動をコントロール出来なくなり、特定の筋肉に常に力が入っている状態です。
特定の筋肉に常に力が入っていることで、痛みが出たり思うように動けなくなってしまいます。
失語症
脳卒中になると失語症という症状が出ることがあります。
ほとんどの人が脳の左側に言語に関する機能を持っています。
その為、左側で脳卒中を発症することで失語症という言語に関する症状が出現しやすいです。
失語症には大きく分けて2種類あります。
失語症①:運動性失語
運動性失語というものは、簡単にいえば喋ることが難しくなります。
言葉を発することが難しくなることを運動性失語いいます。
喋りにくいので自分の言っていることが相手に伝わらなかったり、言いたいことが言えなかったりします。
そして、言っていることがよく分からなかったり、発言が無いことで誤解されがちですが、相手の言っている言葉はきっちり理解されています。
これが運動性失語の特徴です。
失語症②:感覚性失語
感覚性失語とは喋ることが出来ますが言葉を理解する能力に障害が出ていることが特徴です。
その為、話し方は運動性失語と異なり滑らかですが、言い間違いが目立つ発話で、特に聞いていて理解することが難しくなります。
感覚性失語の特徴の1つとして多弁なことがあります。
言葉そのものの理解が障害されているので状況判断や推測などによって理解されようとします。
その為、ゆっくり話しかけながらジェスチャーを加えるなどの工夫をすると比較的相手に伝わりやすいです。
失行
失語症と同じく左側で脳卒中を発症すると失行と呼ばれる症状が出ることがあります。
失行というものは言われたことを理解しているにもかかわらず、日常生活で普段から行っている動作が上手くできなくなることを言います。
(運動麻痺などにより身体が思うように動かない場合を除きます)
失行には様々種類がありますが、典型的な失行には以下のようなものがあります。
観念失行
観念失行というものは道具の名称や役割や用途を説明できることが出来ますが、実際に道具を使用するに当たって、一連の必要な動きが出来ないことを言います。
例えば
「マッチを使ってろうそくに火を灯すことが出来ない」
➡マッチに火をつけてろうそくに灯す。当たり前のことですが、観念失行症状がある人はこれが出来なくなります。
マッチを使って火を灯すには…
1:ろうそくをたてる
2:マッチを箱にこすって火をつける
3:火のついたマッチをろうそくに近づける
この3つの動作が必要になってきます。
観念執行を有する者は、「ろうそくとマッチをこすったりする」などの間違った使い方をします。
観念運動失行
観念失行が一連の道具の操作が出来ないことに対して観念運動失行は、「物品を使用しない単純な動作」や「1つの物品を対象とする動作が障害される」ものです。
しかし、意図的には出来なくなるが自動的(無意識)には出来ることが特徴です。
例えば、
「道具なしに金槌を打つ真似をして」
「バイバイの真似をして」
と言われても出来ないことが特徴です。
しかし、友達と別れる時などは自然に「バイバイ」が出来てしまいます。
友達と別れる時などにする「バイバイ」は無意識ですが、意識してバイバイを使用とすると出来なくなります。
半側空間無視
半側空間無視は失語症や失行とは異なり、右側の脳で脳卒中が発症すると出てきます。
右側で脳卒中が起こると、半側空間無視という左側にあるものを無視する症状が出ます。
左側にあるものを無視するので、食卓に並んでいるおかずの右側にあるものばかりを食べたり、歩いている時に左側にあるものによくぶつかったりします。
半側空間無視の特徴は、盲目ではなくきっちり見えています。
見えていますが、認識することが出来ずに無視してしまいます。
また、半側空間無視でも無意識では左側にあるものを無視してしまうが、意識して左側にあるものに注意を向ければ認識出来る人もいます。
しかし、左側にあるものに注意を向けても認識できない人もいます。
稀に左側で脳卒中が発症した場合に症状が出来ることがありますが、その場合は右側にあるものを無視してしまいます。
注意障害
ここでいう注意というものは、何かに意識を向けることを言います。
環境・状況にあった部分に意識を向けることは当たり前に行っていることですが、注意障害をきたすと様々な支障がでます。
ここでは典型的な4つの注意障害をお伝えします。
注意障害①:選択性
選択性の注意障害といものは、環境・状況にあったものに意識を向けることが難しくなることを言います。
普段私たちは仕事に取り組んでいたり、食事をしている時は状況や環境に合ったものに意識を向けています。
しかし、選択性の注意障害をきたしてしまうと課題に取り組んでいるのに、課題とは違うものに意識がむいてしまいます。
食事をしているのに、ごはんではなく、人や周囲のものに意識がむいてしまったりします。
特に周りの環境が騒がしかったり、周囲の環境の変化が多いと、課題に取り組むことが出来ずに違うものに意識が向きやすいです。
選択性の注意障害をきたしている人に課題を行ってもらう為には、静かな環境を用意してあげることが大切です。
注意障害②:持続性
持続性の注意障害というものは、特定のものに意識を向けた後に長い時間持続することが難しくなることを言います。
課題に取り組んでもらってもすぐに意識が違う方向に向いてしまったりします。
簡単に言うと…集中力が維持出ないようなものです。
注意障害③:分配性
分配性の注意障害というものは、意識を2つ同時に向けることが難しくなることを言います。
私たちは…
~~しながら、○○する。
というように、何かを行いながら別のことをすることが出来ます。
お盆に乗った水の入ったコップを持ちながら歩く場合、
1:水がこぼれないようにすること
2:ぶつからないように、こけないように歩くこと
この2つに注意すると思います。
私たちは2つ同時に注意しながら物事を行うことが出来ますが、分配性の注意障害をきたすとどちらか一方にのみ意識が向いたり、どちらか一方の意識が不十分な状態となってしまいます。
注意障害④:転換性
転換性の注意障害というものは、一度向けた意識を別の何かに変えることが出来ないことを言います。
例えば
料理をしている時に人が訪ねてきた時に、料理から人に意識を移し替えることが難しくなります。
意識は環境と状況に合わせて対象を切り替えなければいけませんが、転換性注意障害をきたすと難しくなります。
意識障害
普段私たちは覚醒(目を覚ましている)ことで運動が出来たり、考えることが出来ます。
しかし、脳卒中の発症部位や程度によっては意識障害が出現してしまいます。
意識障害は【意識混濁】と【意識変容】に分けられます。
意識混濁
意識混濁とは意識の程度を示しています。
上から順に
・明識困難
・昏蒙
・傾眠
・嗜眠
・昏睡
に分けられます。
分かりやすい基準として、
明識困難が、意識がはっきりしているとは言えない状態
傾眠が授業中や仕事中などに眠たくなっているような状態
昏睡が意識が無い状態と知っておけばいいと十分だと思います。
意識変容
意識変容は意識の質を示しています。
意識変容は軽度~中等度の意識混濁を背景とし、多彩な精神症状を伴っている意識障害です。
・もうろう状態:軽度意識混濁の状態であり、意識の範囲が狭くなっている状態
・せん妄:軽度の意識障害に精神的な興奮状態として活発な幻覚・錯覚・不穏などを伴う状態
・錯乱:思考の乱れ、見当識や記憶に軽度の障害をきたすことがある状態
・夢幻様状態:幻想的・場面的な幻肢をと特徴とし、夢と現実が入り混じった状態
まとめ
ここまで脳卒中の原因と症状について理学療法士からお伝えしてきました。
脳卒中の原因と症状についてお伝えしました。
脳卒中は正式には脳血管障害といい代表的には
・脳梗塞
・脳出血
・くも膜下出血
の3つがあります。
そして脳卒中を起こすと、
・運動麻痺
・感覚麻痺
・筋緊張の亢進
・失語症
・失行
・半側空間無視
・注意障害
・意識障害
といった様々な症状が出てきます。
それぞれの症状の有無・症状の程度は、発症部位・大きさ・発症してからの迅速な対応の有無などにより変わってきます。
脳卒中を発症しない為にも日々の生活習慣には気を付けるべきです。
また、身内が脳卒中を発症した場合、症状などについて理解を深めて手助けしてあげることが大切です。
ここまで読んで頂きありがとうございました。