【理学療法士が伝える】運動主体感と運動錯覚に関わる脳機能

【医療者向け】脳機能

運動主体感(sense of agency)とは自己の運動を実現しているのは自分自身であるという主体の意識のことです。

端的にいえば、目の前の自分の右手を動かしたときに、この運動は自分の意図によって起こった動きであるという意識です。

この運動主体感は一次運動前野や運動前野の電気刺激を行った際に、実運動は出現するものの、それは気づきのない運動であるということが分かっています。

自身で動かしたという意図から生じる運動は、下頭頂小葉の活動から始まり運動意図が出現することで生じることが分かっています。

こういった運動意図は右半球で生じることが分かっており、右の下頭頂小葉の機能が運動実行者の運動意図(運動主体感)を生み出すことが結論づけられています。

右の下頭頂小葉の活動をノイズで抑えられた状態で物品の操作を行っている時、自分が操作していない意識が生まれることも分かっています。

右の下頭頂小葉の障害を受けると自己の運動主体感の喪失感のみならず、重症例では「他者によって動かされてる自己の身体」といった意識を生み出すこともあります。

 

運動錯覚経験を引き出す脳の機能

運動錯覚を引き出す方法として、

・「腱に振動刺激を行うことで固有感覚フィードバックを利用する方法」

または

・「映像上の身体と実際の身体のスケールを同期させ、映像上の身体が動いているのを観察しているだけで、自身が運動しているような錯覚を起こすバーチャルリアリティーを用いた方法」

があります。

腱に振動刺激を行うことで生じる運動錯覚

周波数80Hzの振動刺激を腱器官に与えると、骨格筋内の筋紡錘からIa求心性線維が活動し、振動刺激が与えられた筋が伸張されているような情報が脳に送られて、自分自身の手足が動いているような明瞭な運動錯覚が惹起されることです。

腱器官に振動刺激を与えることで脳では、左右関係なく右半球の下頭頂小葉・左右の下前頭回が活性化することが分かっています。

上記の結果から受容感覚としての自己の運動錯覚には右半球の前頭-頭頂領域が深く関わっていることが分かります。

その他に運動錯覚は実運動時の脳活動と等価的であるという報告があります。

 

また、ボールを握った手に対して振動刺激を行った手-物体運動錯覚では、左半球の下頭頂小葉下前頭回が活性化することが分かっています。

これはボールが視覚的に動くといった外界に働きかけるような錯覚時には左半球が優位に活性化するということです。

【右半球・左半球の運動錯覚の違い】
右半球:自己の内受容感覚に基づく運動錯覚
左半球:外界の物体の外受容感覚に基づく運動錯覚

 

 

運動錯覚の文脈依存

運動錯覚は文脈によっても身体的な意識が変化することが確認されています。

例えば

「両手の掌を合わせた状態で右手関節総指伸筋腱を振動刺激すると、直接刺激された側の右手関節掌屈の運動錯覚が想起されるだけでなく、左手関節が背屈するといった運動錯覚が惹起する」ということが確認されています。

これは左手関節には直接刺激していないため求心性フィードバック情報は脳には伝達されませんが、左手の運動錯覚が生じているということは触覚情報と右手関節の運動感覚情報から辻褄(文脈)が合うように脳内で情報が統合されているためです。

 

振動刺激による運動錯覚と痛み

健常者の手・指を固定し5日間の不動をつくり、固定期間中に振動刺激による運動錯覚を生じさせた群と運動錯覚を起こさせなかった群をfMRIで比較した研究があります。

共に不動期間があったが、運動錯覚を生じさせた群では、一次体性感覚野一次運動野下頭頂小葉補足運動野背側運動前野の活動低下が認められず、その一方で非錯覚群ではそれらの脳領域の活動が固定後に減弱化していくことがわかっています。

運動-感覚に関する脳領域は下降性疼痛抑制系を賦活させ痛みを軽減させるコントロールに関わる領域です。

国際疼痛学会におけるCRPSの診断基準の中にギプス固定による不動の有無が挙げられています。

固定による不動はこうした運動-感覚領域の活動の減弱化を引き起こし、痛みを増悪させている可能性が考えられます。

その為、ギプス固定期間に痛みの慢性化を予防することが大切ですが、振動刺激による運動錯覚はこうした慢性痛を予防する効果が示されています。

【まとめ】
振動刺激を適切な周波数(80Hz)で腱に当てると求心性線維の活動で運動錯覚が生じる
固定部位への振動刺激は運動-感覚脳領域の活動低下を予防し、振動刺激による運動錯覚は慢性痛の予防に繋がる

 

視覚的運動錯覚の生起と関わる脳の機能

物体の把持運動を観察させた場合の脳活動記録では、運動に関わる前頭皮質の活性化を認めました。

また、活性化の程度は運動錯覚の程度(運動主体感スコア)と正の相関関係であることが分かっています。

また、物体の把持だけでなく道具の先端の動きを観察する場合でも運動関連領域の活性化を認め、同様に運動主体感の程度と正の相関関係がみられることが明らかにされています。

このように視覚的な映像によっても運動錯覚の惹起も確認されており、異種感覚統合に基づいた運動感覚の生起であると考えられています。

また、視覚的身体像が運動制御に影響することも確認されています。

ムービングラバーハンド錯覚と運動主体感

ラバーハンド(上)と本物の指(下)をワイヤーでつないで、本物の指の運動に合わせてラバーハンドが動くように設定し、自動運動を行うと運動主体感が惹起されることが分かっています。

これは自己の指を動かすという運動意図と実際の視覚(ラバーハンド)・体性感覚フィードバック(本物)のタイミング一致することで、ラバーハンドであっても運動主体感が起こることが分かっています。