肥満などにより過度に膝関節に荷重が加わったり、膝関節の周囲関節(股関節・足関節)などの影響により、本来とは異なった荷重の加わり方がすると変形性膝関節症を誘発することは周知の通りです。
変形性膝関節症末期の治療手段として全人工膝関節置換術(TKA)を施行します。
TKA術後の画像の見方を知っておくことは、TKA術後の治療考察に繋がります。
ここでは、TKA術後の画像の見方をお伝えします。
全人工膝関節置換術(TKA)の構成体
TKAは、末期の変形性膝関節症、関節リウマチなどに対して行われる膝関節再建手術で、1年以上積極的な運動療法や薬物投与・装具療法を行っても症状が不変あるいは増悪すうた場合に行われます。
TKAは10年間の術後長期成績が90%以上という安定した術式の1つです。
TKAの構造は様々ですが、基本的に3つのインプラントで構成されます。
・大腿骨インプラント
・脛骨インプラント
・脛骨インサート
膝蓋骨を置換する場合は
・膝蓋骨インプラント
重要なインプラントの1つになります。
大腿骨インプラント
大腿骨側に設置されるインプラントで、大腿骨表面の骨切りをインプラントの形状に合わせて行い大腿骨の表面を置換します。
CR・PS型で形状が異なります。
X選画像では似たような形状をしていますが、メーカーによって形状は異なります。
脛骨インプラント
基本的には脛骨表面を水平に骨切りし設置されます。
しかし、メーカーによっては数度後傾で骨切りして設置するのを推奨している場合もあります。
この脛骨ベースプレートの上に次に紹介するインサートが設置されます。
脛骨インサート
大腿骨インプラントと脛骨インプラントの間に設置され、インプラントの関節面を構成するものです。
CR型とCS型で形状が異なります。脛骨インサートに合わせる脛骨インプラントもCR型とCS型で異なります。
インサートは厚さが数種類あり、メーカーによって異なります。
膝蓋骨インプラント
各メーカーによって形状に少し違いがありますが、PS型やCR型等の種類別の形状変化はなく、どのタイプのTKAインプラントでも同じものが適用されます。
膝蓋骨インプラントは大腿骨インプラントの前面を滑走します。
膝蓋骨インプラントは膝蓋骨の変性がある場合や膝蓋大腿関節での痛みが強い症例は膝蓋骨が置換されます。
膝蓋骨の骨棘の除去は行う場合がほとんどですが、膝蓋骨置換を行わない医師も少なくありません。
全人工膝関節置換術(TKA):種類
CR型:非制御型
PS型:半制御型
CS型:制御型
この3種類は前十字靭帯(ACL)・後十字靭帯(PCL)を切離しているか、温存しているかで行える手術方法が異なります。
また、それぞれpost-cam機構やインサートなどの違いもあります。
TKA-CR型(Cruciate-Retaining)
CRの意味はCruciate=十字、Retaining=保存でありますが、ACL切除しPCLは温存します。
CR型における最大のメリットはPCLが温存されている事です。
脛骨の後方制動を固有靭帯のPCLで行うことが出来ます。
そのため屈曲時のRollbackも本来の自然な動きのままで可能という訳です。
しかし、PCLが正常として残存していないとRollBackが上手くいかずに可動域制限が出来てしまうことも決して少なくありません。
CR型はACLを切除します。
ACLが存在しない膝関節である為、脛骨の前方への動きの不安定性は残ります。
PCLを温存させても膝関節の正常な動きは期待できないと言っているDrもいます。
以上のことからTKAのCR型の適応は、PCL拘縮を認めず・PCL機能が維持されていると判断された場合です。
もし、PCL拘縮を認める場合はPS型が望ましいと考えられます。
TKA-PS型(Posterior-Stabilized)
PS型の意味はPosterior=後方、Stabilized=安定・固定ですので、後方を安定化したタイプという意味です。
PS型はACLと共にPCLを切除することにより術野が広がり、後方線維の軟部組織処理や骨棘除去がしやすくなります。
PCLを切除するので後方への動きは不安定となりますが、インプラントの形状(Post-Cam機構)により脛骨の後方への安定性を得るため、インプラントの物理的な制動を作ります。
そのため、術前のACL・PCL状態の影響を受けることが無いので再現性が高い運動パターンを獲得することが出来ます。
PS型の最大の特徴大腿骨インプラントと脛骨インサートのPost-Cam構造です。
大腿骨インプラントにCamがあり、内顆・外顆を結ぶような形で着いています。
インサートには真ん中にPostという突起がが着いています。
膝関節の屈曲運動時にはPostとCamが接触して屈曲時のRollbackが誘発されます。
つまり、脛骨インサートのPostに大腿骨インプラントのCamが接触して屈曲していくと、大腿骨側が転がるような構造になっているわけです。
また同様に脛骨の後方移動に対して物理的な安定性を成しています。
TKA-CS型(Cruciate Substituting)
TKAのCS型とはCruciate Substitutingの略称で、十字の代理という意味になります。
TKAのCS型はインプラントが十字靭帯の代わりを果たすということです。
CS型は他の型同様にACLを切除しますが、PCLは温存か切除するのか選択が可能です。
・ACL切除
・PCL温存 or 切除(選択可能)
CS型がPCLを温存するのか切除するのか選択可能なことはCS型のインプラントの形状に秘密があります。
CR型・PS型とCS型のインサートの形状はそれぞれ違います。
PS型はpostという突起があるので、明らかに形状が異なりますが、CR型とCS型は形状が似ています。
CR型とCS型の形状の違いとして、CS型インサートは深い皿状(deep dished plate)であり前方と後方が隆起しています。
人の膝関節は元々大腿骨側が凸であり、脛骨側が凹となっています。
TKAを行っても凹凸の法則は同じであり、CS型では前方・後方が隆起しているため凹凸が深くなり、関節面形状の高い適合性により後十字靭帯機能を代償するデザイン設計となっています。
大腿骨と脛骨の関節内の前後方向への移動がインサート上で拘束されているので制御可能になっているというわけですね。
TKA術前の見るべき点
各方向の画像から読み取ること
正面では大腿脛骨角(FTA)を確認します。
FTAは日本の成人男性の平均が178°・女性が176°と言われています。
FTAが165°以下を外反膝(X脚)、180°以上を内反膝(O脚)と言われています。
ミクリッツ線は、大腿骨頭と足関節中心を結んだ線であり、正常な膝関節ではミクリッツ線は膝関節の中心を通りますが、内反型ではミクリッツ線は内側・外反型ではミクリッツ線は外側を通り、荷重時の膝関節の内外反の強さを示唆しています。
膝蓋大腿関節軸射像では、膝蓋大腿関節のアライメントと、膝蓋骨が大腿骨滑車上の軟骨面中心部に乗っているのかを判断します。
大腿四頭筋はその走行方法から、収縮時には膝蓋骨を上方に引っ張るだけでなく、わずかに外後方にも引っ張ります。
大腿四頭筋は外側広筋が筋面積が最も大きく収縮力が強いため、膝蓋大腿関節痛症候群と膝蓋骨の過度の外側変位(亜脱臼)は関連があり、大腿四頭筋のアンバランスまたは過度な活動も評価することが大切です。
特に外反型変形の膝関節ではより膝蓋骨が外側方向へ引っ張る力が強いので、膝蓋骨が大腿骨滑車上の軟骨面中心部に乗っているのか判断し、膝蓋跳動や膝蓋骨の動きも合わせて評価します。
その他に術前の状態を評価することで、術前の生活や筋活動の特徴、疼痛などの予測することが出来ます。
変形性膝関節症の画像の見方の詳細は以下の記事を参考にして下さい。
TKA術後画像の見方
変形性膝関節症では、膝蓋大腿関節の狭小化や骨棘があることで、屈曲の可動域制限が生じることや、疼痛の原因となることがあります。
膝蓋骨の可動性を確認・大腿四頭筋の収縮時に膝蓋骨の動きが正しい方向に出ているかを実際に触診しながら確認します。
変形性膝関節症が進行すると荷重時に床反力が膝関節を内外反させる方向に働くため、左右に動揺することがあります。
長期間膝関節の動揺があると、膝関節の側副靭帯が緩くなり、内・外反ストレスに対して弱くなります。
また、術後に側副靭帯の緩みがあることで膝関節の支持性が低下することもあるので注意し、評価を行います。
前十字靭帯は基本的に切離しますが、後十字靭帯は状態によってTKAの種類を選定し、温存又は切離を行います。
後十字靭帯の有無で膝関節屈曲最終域での動きや禁忌が変わってくるのでDrに確認します。
変形や裂隙の狭小化によって、どこの軟部組織に短縮やストレスがかかっているのかを考え、TKA術後のリハビリに生かします。
例えば内反型変形性膝関節症の場合、内側支持組織である股関節内転筋のなかで2関節筋である薄筋が過活動となり、鵞足部の付着部に疼痛が出現することがあります。
関節内では内側半月板に対しストレスが集中し、炎症によって疼痛が出現することもあります。
また、内反トルクが増大することで外側広筋の過剰収縮や腸脛靭帯の過緊張が起こり、柔軟性が低下します。
術後画像からの考察
上図のような変形が強い膝関節も人工関節置換術を施行することで改善されます。
手術の際に骨棘や組織を削り、骨の配列を正常に近い位置に戻され、可動域制限も改善されます。
術後の可動域制限は、筋や靭帯などの軟部組織や、術創部の腫脹などが原因となることが多いです。
手術後では短縮している組織を伸ばしていることで伸張された組織の伸張痛が出現することがあります。
手術前と比較し、どの組織が伸張されているのか、どの方向に弱いのかなどを考慮しながら理学療法を進めていく必要があります。
上図は【術後画像からの考察】で紹介した変形性膝関節症のTKA施行後のレントゲンです。
重度の変形を伴っていましたが、FTAの改善が認められ関節裂隙の狭小化も改善されています。
しかし、大腿骨インプラントと脛骨インプラントの間が小さく、関節可動域制限が残存する可能性があります。
出来る限りTKA施行の際に、脛骨インサートは何mmのものを使用したのか確認を行い、他動的に動かした際に異音の有無や抵抗感を確認します。
(脛骨インサートは多くは8~10mm±1mm)
※脛骨インサートは骨切りしインプラントを置換した大腿骨・脛骨の隙間に合わせて選択されます。インサートをはめ込んだ際の可動域を確認しながら行っていくため、適切なインサートが選択されます。術中に可動域を図りながら行っている為、術中可動域の確認を大切な情報になってきます。
TKAの手術は別記事で詳しく説明したしますので参考にしてみて下さい。
TKA:リハビリテーション
TKA術創部は膝関節前面であり、筋の侵襲も大きいため、膝関節屈曲を行うと創部に強い疼痛が出現する場合もあるので、リハビリは愛護的に進めていきます。
術後は腫脹が生じやすく、長期間腫脹が続くと拘縮の原因になるため、リハビリ後はアイシングなどの寒冷療法を行い、腫脹や熱感をとりながら進めていきます。
膝蓋骨直上には、膝蓋上包が大腿骨顆部前面と膝蓋骨をつなぐ滑液包として存在しています。(上図)
膝蓋上包が癒着することで膝関節の屈曲可動域制限や膝関節伸展不全(extension lag)を起こす要因となります。
術後早期から皮膚だけなく、筋の深部のある滑液包の柔軟性の改善も図っていきます。
また、術前より膝関節の伸展可動域制限がある場合、後方組織の伸張性・滑動性低下を引き起こしていることがあるため、創部以外の後方組織にも注意します。
参考書籍
今回は下の書籍を参考に変形性膝関節症の見方をお伝えしました。
変形性関節症だけでなく、人工関節や骨折などの運動器全体の画像の見方を丁寧に書いてあります。
運動器の画像の見方が分からない新人理学療法士には特に一度読んで欲しい書籍です。
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ここまで読んで頂きありがとうございました。