【リハに役立つ】バランス保持に貢献する感覚情報:視覚について

【医療者向け】バランス

バランスを保持するために人は視覚・体性感覚・前庭感覚の情報を基に姿勢を調整しています。

【それぞれの感覚で得る情報】
視覚:見え方の変化・眼球運動の変化に基づく周囲の環境と身体の距離関係
体性感覚:足底や下肢を中心とする全身の感覚情報に基づき、支持基底面に対する身体の位置や動き全身の姿勢や協調関係
前庭感覚:重力や頭部位置の変化を検知して身体の位置・動き

感覚の重みづけ

バランスを保持するための視覚・体性感覚・前庭感覚といった3つの情報は、状況・状態によって貢献度が異なります。

柔らかいマットなどの足底が安定しない場所では、体性感覚よりも視覚・前庭感覚がバランス保持に対する情報として貢献度が高くなります。

暗闇では視覚に頼ることが出来ないため、体性感覚・前庭感覚がバランス保持に対する情報として貢献度が高くなります。

このように中枢神経系は状況・状態によって依存する感覚情報を常に調整していると言われています。

感覚統合機能テスト

依存する感覚情報の調整能力を評価する検査に感覚統合機能テストがあります。

動揺に応じて床と前方の壁が可動する装置などを用いて評価します。

 

●条件2・5:目隠しで視覚が利用できない

●条件4・5・6:姿勢動揺に対する形で床が回転(足関節まわりの体性感覚情報が利用しにくい)

●条件3・6:前方の壁が動く(視覚に基づいて揺れを検知する能力が減弱)

条件1:視覚○・体性感覚○・前庭感覚○
条件2:視覚×・体性感覚○・前庭感覚○
条件3:視覚・体性感覚○・前庭感覚○
条件4:視覚○・体性感覚・前庭感覚○
条件5:視覚×・体性感覚・前庭感覚○
条件6:視覚・体性感覚・前庭感覚○

感覚統合機能テストは安定性スコアが用いられ、足圧中心の前後動揺から重心の前後動揺の最大角度を推定計算します。

直立可能な最大動揺角度を12.5°とした場合、足圧中心から推定された動揺角度が12.5°からどの程度小さいかに基づいて100点満点スコアに変換します(スコアが100に近いほど、動揺が全くない状態)

 

若齢者・健常高齢者・前庭感覚障碍者を対象に感覚統合機能テストを行うと、いずれの条件においても条件5・6で安定性スコアが低い結果となっており、特に前庭感覚障碍者でその変化が著名となっています。

また、転倒危険の高い高齢者と転倒危険の低い高齢者別で感覚機能統合を行った結果では、転倒危険の高い高齢者では条件3・6で安定性スコアが有意に低かったとされています。

つまり、転倒危険の高い高齢者は視覚情報が全く利用できない条件よりも視覚情報が上手く活用しにくい条件でふらつきが著名であったということです。

これは転倒危険の高い高齢者は視覚情報が利用できる条件では視覚情報を基にバランスを制御しようとする働きが強すぎるため、見え方の変化が上手く活用できない条件で動揺が大きくなってしまうと考えられます。

視覚と姿勢制御

基本的に開眼状態よりも閉眼状態の方が姿勢動揺量が大きくなります。

このことから視覚情報はバランスを保持する上で非常に重要な役割を果たしています。

しかし、視覚情報を基にしてバランスを保持するには数百ミリ秒という比較的長い時間が必要です。

数百ミリという時間では滑って転倒しそうになった際に、バランスを保持するには時間がかかりすぎるため視覚情報はあまり意味がありません。

視覚情報はとっさにバランスを崩した際に対応するには向いていませんが、立位姿勢を長く保っている状態を場面で姿勢の微調整に寄与していると言われています。

両目と片目の見え方

片眼をつぶると姿勢動揺はどうなるのでしょうか?

通常眼から入る情報は二次元の情報です。しかし、同一の対象物を両眼で見ることで両眼視差という情報が入ります。

両眼視差とは、人は左右の眼は約6㎝離れており、左右の眼で同じ対象物を見たときに、わずかに見え方が左右で異なります。

この見え方の差を両眼視差といい、両眼視差で周辺環境を三次元で捉えることが出来ます。

片眼で見ているときは、三次元で捉えることが出来ないため視覚情報を使って、周辺環境との距離を知覚することが難しくなり、姿勢制御に影響が出ることが予想されます。

しかし、研究によっては片眼・両眼のどちらでも姿勢動揺に差はないという報告もあり、片眼の場合は体性感覚・前庭感覚といった他の感覚への依存度が高くなっている可能性があります。

対象物の距離と姿勢動揺

両眼から入る視覚情報も対象物が近くにある方が遠くにあるよりも姿勢動揺量が小さくなるという報告があります。

対象物が近くにあると両眼は寄り目のように内側に回転します。

この内側への回転を利用することで、対象物との距離関係が知覚しやすくバランス保持に寄与出来ると考えられています。

対象物が遠くにある時は、この眼球の動きは生じずにほぼ平行状態となります。

中心視野と周辺視野

ヒトの視野は上下130°・左右200°程度の範囲といわれています。

しかし、文字が認識出来るのは視野中心から2~3°と言われており、非常に狭くなっています。

(文字が認識出来る視野が2~3°である理由は、高い解像度を有する場所は中心窩に局在しているため)

 

バランスを保持するために有益な情報は中心視野よりも周辺視野だと言われています。

中心視野+周辺視野と周辺視野のみ、とそれぞれの条件でバランス保持を比較しても大きな違いがなかったとされています。

周辺視野の情報はバランスを崩したときに支持物を掴むためのリーチ動作の制御に貢献しています。

周辺視野の情報は解像度が高くないので、正確性に欠ける印象です。

実際に周辺視野だけではリーチ動作が遅くなると言われていますが、しかしステップ戦略が利用できない状況でバランスを崩したときには、周辺視野の情報であってもリーチ速度が遅くなるへものの、ある程度正確にリーチすることが出来ます。

つまり、不意にバランスを崩した時にバランスを保持するための視覚情報は中心視野よりも周辺視野が上肢リーチ制御に貢献しているということです。

壁の動きに応答する姿勢変化

床は変化せずに壁だけ近づいたり、遠ざかったりした際に立位姿勢をとっている人は身体が自然と前後にわずかに傾くと言われています。

壁を近づけると後ろへ傾き、壁を遠ざけると前へ傾きます。(下図)

壁が近づいた時の身体は後ろへ傾く

これは壁が動くことで視環境に変化が生じ、身体が前後に傾いた状況を連想して自動的に姿勢調整反応を引き出すからとされています。

この壁が動くことによる視環境の変化は、視覚依存が高い1歳児や60歳以上の中高齢者で姿勢動揺が大きくなります。

高齢者の中でも視環境の変化に弱い高齢者で特に転倒の危険が高いと言われています。

また、一度視環境の変化で生じた姿勢動揺は、しばらく時間が経過しても持続するという報告もあります。

日常生活と視環境

日常生活には視環境の変化が常に生じています。

外出すれば人や車などの自分と他者との動きが常に視環境の変化を作り出します。

高齢者では若年者と比較して、エレベーターから降りる際にドアが開いた視環境の変化でも姿勢動揺が大きいという報告もあります。

高齢者になると階段よりもエレベーターを利用する機会が増えることが予想されるため、バランス能力が低下し転倒危険の高い高齢者では特に注意が必要かもしれません。

コメント

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