【理学療法士が伝える】歩行開始の制御と加齢的変化

【医療者向け】歩行

日々の臨床で歩行開始時にふらついてしまい転倒の危険が伴うことで、歩行の実用性を欠いてしまう症例は多くの人が経験すると思います。

歩行開始は歩行中とは異なる重心移動や筋活動パターンを伴います。

歩行開始時にふらついてしまう原因を探る為には、歩行開始時の制御について知る必要があります。

歩行開始時の制御についてお伝えしていきます。

歩行開始のメカニズム

歩行開始時の運動学

床反力パターン

歩行開始時の床反力を計測した研究では、床反力を左右別々に測定すると定型的なパターンを示すことが分かっています。

ここからは右下肢から振り出すことを前提にお伝えしていきます。

歩行の振り出しが始まる前に、右下肢の床反力垂直成分が一度増加し、反対に左下肢の床反力は同じだけ小さくなる相対的なパターンを示します。

左右下肢の床反力の合力は大きな変化がなくほぼ一定です。

 

足圧中心の移動パターン

 

重心移動を【前後方向】と【側方方向】の2つに分けて説明します。

前後方向では足圧中心は一度後方へ移動した後に急に前方方向へと移動します。

右下肢を振り出した後の一歩目の立脚(右下肢)に重心が停留した後に、2歩目の急速な前方移動が始まります。

側方方向については右下肢を振り出す時に一度右下肢側に動いた後、左下肢側に移動します。

初期の振り出し下肢側への足圧中心移動は上記で説明した左右の相対的な床反力パターンに対応しています。

足圧中心と身体重心の関係

静止立位では足圧中心と重心移動は類似しており足関節よりやや前方でほぼ正中線上にあります。

右下肢を振り出す時は身体重心は左前方に動き始めますが、この身体重心移動は足圧中心の右後方への移動によって引き起こされています。

これは右後方に移動した足圧中心で身体を支えた状態で、重力が重心に作用して左前方への転倒を生じさせ、重心の左前方となります。

そのあとは足圧中心は左側へ移動し、身体重心は足圧中心に対して右方に位置するので重力によって右方に加速されます。

歩行開始時の筋電図

歩行開始に先立って、下腿三頭筋前脛骨筋の筋活動が増大します。

通常の静止立位姿勢は足関節の前方を床反力が通っているため、足関節背屈方向へのトルクが生じます。

この足関節背屈方向へのトルクを下腿三頭筋の筋活動によって制御し立位姿勢は維持されています。

下腿三頭筋の筋活動が低下することで、身体に対して足関節を軸にした前方方向への回転運動が生じます。

これが歩行開始時の重心移動前方移動であり、この時の足圧中心は振り出し側下肢の後方に移動します。

また、前脛骨筋が強く収縮した時には足圧中心はさらに後方に移動するため、重力の影響によりさらに強い

前方への回転運動が生じます。

 

健常者の歩行開始筋活動パターン

健常者の歩行開始は、静止立位で比較的弱い筋活動を示すヒラメ筋の筋活動の低下から生じ、次に前脛骨筋の筋活動が生じます。

ヒラメ筋活動低下・前脛骨筋の筋活動は足圧中心の後方移動を引き起こしますが、この足圧中心の後方移動は前脛骨筋の筋活動の方が要因が強いと言われています。、

歩行開始速度を変化させた場合でも、前脛骨筋の筋活動と歩行開始時の速度は比例関係にあるとも言われています。

 

また、歩行開始時の振り出し側下肢の大腿筋膜張筋の筋活動増大反対側の低下が生じることが示されています。

また、振り出し側下肢の股関節外転筋が前脛骨筋の活動開始と同じころに生じることが示されており、こう言った筋活動が歩行開始時の振り出し側への足圧中心移動が生じると考えられています。

 

歩行開始時の下肢関節の動き

立脚側・遊脚側の両下肢の足関節は背屈方向に一貫して生じます。

これは大腿直筋前脛骨筋の筋活動腓腹筋の筋活動低下と対応しており、この筋活動の変化によって足圧中心が後方に移動します。

股関節の運動に関しては個人差が大きく、振り出し側の下肢はわずかな伸展を示す場合と示さない場合があります。

しかし、立脚側の股関節はほとんど場合に屈曲が生じます。

膝関節は両側とも小さな屈曲が生じますが、その程度は立脚側の方が屈曲角度が大きくなります。

その後はつま先離地の前に振り出し側下肢の膝関節屈曲角度が大きくなり、逆転します。

 

歩行開始時の加齢的変化

歩行開始時のふらつきは高齢者において特に著明となっていることは多くの人が臨床経験から分かると思います。

歩行開始時の加齢的な変化をお伝えしていきます。

足圧中心の移動軌跡パターンは年齢に関係なく一定となっています。

しかし、後方への足圧中心の移動量が高齢者において小さくなることが分かっています。

振り出し下肢側のつま先離地までの時間に年齢的な影響はありませんが、足圧中心の移動量からも前方へ動く力が高齢者では小さくなるため、重心の移動速度は小さくなります。

最初の踵接地までの時間も年齢的な影響はありませんが、最初の一歩目の歩幅は小さくなる傾向があります。

2歩目のつま先離地までの時間にも両者に差はありませんが、2歩目の終わりの速度は高齢者の方が遅い傾向にあります。

 

参考文献

参考文献1

【歩行開始の制御:関屋 昇】 2001 年 16 巻 3 号 p. 139-143

以下のJ-satageより検索して下さい。

➡https://www.jstage.jst.go.jp/browse/-char/ja