「皮膚や骨格筋、腱、靭帯、関節包などの関節周囲軟部組織の器質的変化に由来した関節可動域制限」
1.疼痛と関節可動域制限の悪循環
2.不動による拘縮と疼痛の発展
末梢神経:Aδ線維とC線維などの感作
中枢神経:WDRニューロン割合の増加(非侵害的な刺激でも脳に痛みとして伝達)
関節可動域治療の考え方
姿勢の影響を考える
姿勢により下肢伸展筋群の筋緊張には違いがあり、臥位よりも座位・立位といった抗重力位とする姿勢の方が伸張反射の利得が抑えられ、下肢筋の筋緊張は低下すると考えられています。
実際に健常人のヒラメ筋を対象とした研究では端座位よりも立位でヒラメ筋の緊張が低下していると示唆されるような結果が出ています。
また、立位時のヒラメ筋の筋緊張の示唆は荷重量による違いを認めていません。
しかし、BRSⅢ~Ⅳを対象とした同様の研究では、長座位・立位時などの姿勢や立位時の荷重量によるヒラメ筋の緊張の違いは認められていません。
そのため、運動器疾患などの上位運動ニューロンの障害が無い症例では、座位や立位でストレッチ・関節運動を行うことが得策であると考えられます。
防御性収縮の影響
骨格筋の拘縮の病態には筋長の短縮がありますが、短縮した筋を伸張しようとすると筋につっぱり感と痛みが生じ、その筋が収縮するということが多々あるかと思われます。
この時、伸長された筋だけでなく拮抗筋やその周辺筋群が収縮すると短縮した筋を十分に伸張することは難しいと言えます。
そのため、このような
防御性収縮を取り除かなければ拘縮の十分な改善は見込めません。
筋収縮の影響を取り除く
筋収縮の影響を取り除く治療手技として最も代表的なのがスタティックストレッチです。
持続的な骨格筋の伸長は腱紡錘を刺激し、Ⅰb線維を介して興奮が脊髄に伝搬され、最終的に同名筋のα運動ニューロンを抑制するように作用し、筋弛緩を図ることが出来ます。
ヒラメ筋などの下肢伸展筋を対象としたストレッチングを行う場合は、姿勢を考慮し立位訓練と並行して行う事が望ましいと思われます。
物理療法として温熱療法はⅡ線維やγ運動神経の活動を低下させ、Ⅰb線維の活動は増加させると言われています。
このように温熱療法は最終的にα運動ニューロンの活動を低下させ筋弛緩を図ることができ、さらに循環改善により発痛物質の除去にも繋がり疼痛由来の筋収縮を抑制させることも出来ます。
筋収縮が原因の関節可動域制限は、治療手技によって即時効果が得られやすく、1回の治療で関節可動域制限が改善したのであれば、改善した病態は筋収縮の要素であると考え軟部組織の器質的変化が改善したものではないと十分に念頭においておく必要があります。
拘縮の治療
不動によって生じる拘縮は骨格筋における筋膜と関節包のコラーゲン線維の変化が主であるとされています。
コラーゲン線維を対象とした治療方法の中で、即時的に影響を与えることが出来るのは温熱療法のみとされています。
しかし、コラーゲン線維に影響を与えるまでの温度はきわめて高く実際の臨床で行っているであろう温熱療法では即時効果を得ることはかなり難しいと言われています。
そのため筋内膜を構成するコラーゲン線維の可動性が低下していたり、含有量が増加(線維化)している場合は即時的に関節可動域拡大を図ることはかなり困難だと思われます。
筋線維が弛緩している状態で、関節周辺の環境を調整しながら関節可動域運動などの治療を継続して行っていけば徐々にコラーゲン線維の可動性は改善していく可能性はあります。
また、筋細胞も活性化され線維化も軽減していく可能性はあります。
温熱療法の中でも超音波を一定期間行うと不動によって生じたコラーゲン線維の架橋結合の数や架橋結合の強度が改善すると報告もされています。
関節包のコラーゲン線維の器質的変化に対しても運動療法や物理療法などの治療を継続して行う必要があり、即時的に1回の治療で改善することはかなり難しいと思われます。
ここまで読んで頂きありがとうございました。