【リハに役立つ!】関節可動域とストレッチの生理学的な関係性

【医療者向け】ストレッチ

ストレッチは身体に様々な影響を及ぼし、理学療法などのリハビリでは古くから取り入れられている治療の1つです。

ストレッチを行う多くの目的が関節可動域制限の改善だと思われます。

ここでは関節可動域制限ストレッチの関連に絞って生理学的視点からお伝えしていきます。

関節可動域制限の原因

上図のように関節可動域制限は軟部組織の伸張性低下・軟部組織の短縮・疼痛閾値低下・筋緊張の惹起など様々な理由によって生じます。

また、それぞれに廃用・損傷(受傷・手術含む)・上位運動ニューロンによる神経性の抑制低下・阻血などが背景にあり、お互いが相互的に作用し合って関節可動域性制限を増悪させています。

関節可動域制限の改善を目的としたストレッチを行う為には、関節可動域制限の原因を視診・触診・問診・観察などから探り、原因を追究してストレッチの効果を予測してから行う必要があります。

ストレッチの効果を予測するためには、ストレッチによって身体にどのような生理学的効果が期待できるのかを知っておく必要があります。

ストレッチの効果・生理学的効果

末梢組織の変化

●皮膚の癒着・伸張性の改善

●関節包の癒着・短縮の改善

●筋・腱の短縮および筋膜の癒着の改善

●軟部組織の血流量上昇

➡筋緊張軽減

➡パフォーマンスの向上

阻血による疼痛軽減

上記のようにストレッチは身体軟部組織の伸張性向上組織変化(コラーゲン線維の配列変化など)血流量上昇による筋緊張軽減など末梢組織の様々な変化を引き起こします。

軟部組織の変化、コラーゲン線維の変化に関しては特にラット実験で証明されています。

勉強したい方は沖田 実さんの文献・書籍をオススメします。

 

脊髄反射レベルの変化

筋に過度な伸張刺激を加える持続的なストレッチはIb神経抑制(自源性抑制)に作用し神経性由来の筋緊張軽減に繋がります。

反動をつけたストレッチは、Ia神経を介して拮抗筋のα運動ニューロンの抑制に作用し、伸張された拮抗筋の筋緊張が軽減します。

つまり、ストレッチによる生理学的効果は脊髄反射レベルより末梢部分に限定されるということであり、脊髄反射レベルより上位運動ニューロンには作用しないということです。

筋緊張亢進の原因が阻血によるものであれば、ストレッチによって血流量上昇を図れば筋緊張軽減が期待出来ます。

しかし、脳卒中や不随の脊髄損傷、椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症などによる上位運動ニューロンの抑制が効かなくなり筋緊張が亢進している場合はストレッチによる生理学的効果は原因部位に作用しないため即時的効果な筋緊張低下は期待出来ますが、短期・長期的な筋緊張低下は期待出来ません

同じ筋緊張亢進による関節可動域制限だとしても、その原因の背景によってストレッチの効果の有無が変わってきます。

次に実際のシステマティックレビューや文献を踏まえてお伝えしていきます。

 

ストレッチのシステマティックレビュー

脳卒中・神経症状に対するストレッチ

脳卒中患者の筋肉の機械的特性に対する慢性的なストレッチ介入の影響:系統的レビュー
背景]筋拘縮は脳卒中後によく見られるものであり、その治療には通常ストレッチが必要である。しかし、最近のメタアナリシスでは、脳卒中患者においてストレッチは受動的関節振幅を増加させないと結論づけられている。治療の効果は通常可動域の測定のみで評価されるが、トルクと角度の関係を評価することで筋の構造的・機械的特性に対するストレッチの効果を評価することは、ストレッチの効果を理解する上で有用である。目的]脳卒中生存者における可動域または筋構造(筋膜長など)に関連したトルクの測定がアウトカムに含まれるストレッチの有効性に関する文献のシステマティックレビュー。 METHODS]PubMed、ScienceDirectおよびPEDroデータベースを2人の独立したレビュアーにより検索し、関節角度と受動的トルクまたは筋構造または剛性を評価する慢性的なストレッチ介入(4週間以上)の効果に関する関連研究を検索した。研究の質はPEDroスケールで評価した。[結果]8件の無作為化臨床試験(合計290人)が包含基準を満たしており、サンプルの特徴(リスクがある/既存の拘縮)、プログラムの目的(拘縮の予防/治療)、期間(4~52週)、ストレッチの量(1~586時間)が大きく変化していた。すべての研究は質が高い(PEDroスコア6/10以上)に分類された。6件の研究は上肢に焦点を当てていた。多くのプログラムは12週間未満(n=7研究)で、機械的/構造的特性に変化はなかった最も長い介入(52週間)では、筋膜の長さと厚さ(足底屈筋)が増加していた。結論】脳卒中損傷後の拘縮の予防・治療のために、高いストレッチ量や負荷を伴う長期の介入は、筋・関節の機械的特性に影響を与える可能性があるが、結論を出す前にさらに調査を行う必要がある。

上記のシステマティックレビューから脳卒中患者に対するストレッチは52週以上の介入では筋膜の長さ・厚さの増加が期待出来ますが、52週未満の介入ではあまり効果が期待出来ないということになります。

急性期・回復期の介入期間は52週に満たないのでストレッチによる効果はあまり期待出来ません。

また通所・訪問リハビリによる週2回以下の介入でも、介入が少なく効果が期待出来ないのでストレッチの指導を行い継続して頂くことが必要です。

 

神経学的症状のある人の拘縮の治療と予防のためのストレッチの有効性:系統的レビュー
BACKGROUND]拘縮は神経症状の障害を伴う合併症であり、ストレッチで管理するのが一般的であるOBJECTIVE]このシステマティックレビューの目的は、拘縮の治療と予防のためのストレッチの有効性を決定することであった。このレビューは、より詳細なコクランレビューの一部である。ここでは、神経症状のある患者を含む研究の結果のみを報告する。[DATA SOURCES]2010年6月に以下のコンピュータ化されたデータベースで電子検索を行った。 STUDY ELIGIBILITY CRITERIA]本レビューでは、神経疾患を持つ人々の拘縮の治療や予防を目的としたストレッチの無作為化比較試験および臨床試験を対象とした。 STUDY APPRAISAL AND SYNTHESIS METHODS]2名のレビュアーが独立して研究を選択し、データを抽出し、バイアスのリスクを評価した。主要評価項目は関節可動域(可動域)とQOLであった。副次的なアウトカム指標は疼痛、痙縮、活動制限、参加制限であった。ランダム効果モデルを用いてメタアナリシスを実施した。これらの研究は、ストレッチが関節可動性にわずかな即時効果を示す中等質のエビデンスを提供し(平均差=3°、95%信頼区間[CI]=0°~5°)、ストレッチが関節可動性に短期的または長期的な効果をほとんどまたは全く示さないという質の高いエビデンスを提供している(平均差=1°および0°、それぞれ95%CI=0°~3°および-2°~2°)。ストレッチは痛み、痙縮、活動制限にほとんどまたは全く効果がない[LIMITATIONS]6ヵ月以上のストレッチの効果を調査した研究は検索されなかった[CONCLUSION]定期的なストレッチは神経症状のある人の関節可動性、痛み、痙縮、活動制限に臨床的に重要な変化をもたらさない

上記から神経症状を伴う拘縮(痙縮など)や痛み・活動制限に対してストレッチは効果が期待出来ません。

ストレッチの生理学的効果は脊髄反射レベルより末梢部分にのみに限定されるので、上位運動ニューロン由来の拘縮や疼痛などに対してはあまり効果が期待出来ないことが分かります。

 

運動器に対するストレッチ

運動器疾患に対するストレッチングの効果
ー要旨ー
【日的】本研究の目的は、理学療法分野での運動器疾患ならびに症状を対象としたストレッチング単独の有用性や 効果を検証することである 。【方法】関連する論文を文献データベースにて検索した。収集した論文の質的評価 を行い、メタアナリシスあるいは効果量か95%信頼区間により検討した。【結果】研究選択の適格基準に合致し た臨床試験25編が抽出された 。足関節背屈制限 、肩関節周囲炎、腰痛、変形性膝関節症、ハムストリングス損傷、足底筋膜炎、頸部痛、線維筋痛症に対するストレッチングの有効性が示され、膝関節屈曲拘縮と脳卒中後の上肢障害の改善効果は見出せなかった。【結論】現時点での運動器障害に対するストレッチングの適応のエビデンス を提供した。一方、本結果では理学療法分野でストレッチングの対象となる機能障害が十分に網羅されていない。ストレッチングは普遍的治療であるからこそ、その有用性や効果を今後実証する必要がある 。

上記から部位・症状によりますが、ほとんどの運動器において効果が期待出来ることが分かります。

運動器とは運動するための末梢器官(関節・骨・筋・靭帯・関節包・筋膜など)を指し、ストレッチは末梢器官に対して効果が期待出来ることが分かります。

まとめ

今回ストレッチの生理学的効果に注目して、ストレッチの適応・期待出来る効果の範囲をお伝えしました。

私たち理学療法士が行うストレッチの生理学的効果は脊髄反射レベルより末梢に限定されるため、末梢器官に原因がある場合に効果が期待出来ますが、上位運動ニューロンに根本的な原因がある場合はあまり効果が期待出来ません。

しかし、ストレッチに関する研究はラットでは条件を統一した研究を行うことが出来ますが、対人の研究では倫理的に身体の条件を統一することが難しく、同じ研究でも結果に差が生じます。

同じTKAに対するストレッチの研究でも、【運動経験の程度】・【元の生活の活動量】・【手術の成果】などなど、背景が異なり身体の軟部組織の硬さは異なります。

また、脳卒中・神経症状のある患者に対するストレッチにおいても同様であり、症状に個人差・強弱があるのでシステマティックレビューで効果が期待出来ないということを鵜呑みにしてはいけません。

つまり、患者の様々な症状・関節可動域制限に対するストレッチの成果は個々によって異なり、その原因を深く評価しストレッチの効果を予測しながら再評価し介入を行っていく必要があるということです。

ここまで読んで頂きありがとうございました。