ストレッチのシステマティックレビューを裏付ける機能解剖学

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まずシステマティックレビューについて以下に乗せておきます。

脳卒中・神経症状に対するストレッチ

脳卒中患者の筋肉の機械的特性に対する慢性的なストレッチ介入の影響:系統的レビュー
背景]筋拘縮は脳卒中後によく見られるものであり、その治療には通常ストレッチが必要である。しかし、最近のメタアナリシスでは、脳卒中患者においてストレッチは受動的関節振幅を増加させないと結論づけられている。治療の効果は通常可動域の測定のみで評価されるが、トルクと角度の関係を評価することで筋の構造的・機械的特性に対するストレッチの効果を評価することは、ストレッチの効果を理解する上で有用である。目的]脳卒中生存者における可動域または筋構造(筋膜長など)に関連したトルクの測定がアウトカムに含まれるストレッチの有効性に関する文献のシステマティックレビュー。 METHODS]PubMed、ScienceDirectおよびPEDroデータベースを2人の独立したレビュアーにより検索し、関節角度と受動的トルクまたは筋構造または剛性を評価する慢性的なストレッチ介入(4週間以上)の効果に関する関連研究を検索した。研究の質はPEDroスケールで評価した。[結果]8件の無作為化臨床試験(合計290人)が包含基準を満たしており、サンプルの特徴(リスクがある/既存の拘縮)、プログラムの目的(拘縮の予防/治療)、期間(4~52週)、ストレッチの量(1~586時間)が大きく変化していた。すべての研究は質が高い(PEDroスコア6/10以上)に分類された。6件の研究は上肢に焦点を当てていた。多くのプログラムは12週間未満(n=7研究)で、機械的/構造的特性に変化はなかった最も長い介入(52週間)では、筋膜の長さと厚さ(足底屈筋)が増加していた。結論】脳卒中損傷後の拘縮の予防・治療のために、高いストレッチ量や負荷を伴う長期の介入は、筋・関節の機械的特性に影響を与える可能性があるが、結論を出す前にさらに調査を行う必要がある。

上記のシステマティックレビューから脳卒中患者に対するストレッチは52週以上の介入では筋膜の長さ・厚さの増加が期待出来ますが、52週未満の介入ではあまり効果が期待出来ないということになります。

急性期・回復期の介入期間は52週に満たないのでストレッチによる効果はあまり期待出来ません。

また通所・訪問リハビリによる週2回以下の介入でも、介入が少なく効果が期待出来ないのでストレッチの指導を行い継続して頂くことが必要です。

 

神経学的症状のある人の拘縮の治療と予防のためのストレッチの有効性:系統的レビュー
BACKGROUND]拘縮は神経症状の障害を伴う合併症であり、ストレッチで管理するのが一般的であるOBJECTIVE]このシステマティックレビューの目的は、拘縮の治療と予防のためのストレッチの有効性を決定することであった。このレビューは、より詳細なコクランレビューの一部である。ここでは、神経症状のある患者を含む研究の結果のみを報告する。[DATA SOURCES]2010年6月に以下のコンピュータ化されたデータベースで電子検索を行った。 STUDY ELIGIBILITY CRITERIA]本レビューでは、神経疾患を持つ人々の拘縮の治療や予防を目的としたストレッチの無作為化比較試験および臨床試験を対象とした。 STUDY APPRAISAL AND SYNTHESIS METHODS]2名のレビュアーが独立して研究を選択し、データを抽出し、バイアスのリスクを評価した。主要評価項目は関節可動域(可動域)とQOLであった。副次的なアウトカム指標は疼痛、痙縮、活動制限、参加制限であった。ランダム効果モデルを用いてメタアナリシスを実施した。これらの研究は、ストレッチが関節可動性にわずかな即時効果を示す中等質のエビデンスを提供し(平均差=3°、95%信頼区間[CI]=0°~5°)、ストレッチが関節可動性に短期的または長期的な効果をほとんどまたは全く示さないという質の高いエビデンスを提供している(平均差=1°および0°、それぞれ95%CI=0°~3°および-2°~2°)。ストレッチは痛み、痙縮、活動制限にほとんどまたは全く効果がない[LIMITATIONS]6ヵ月以上のストレッチの効果を調査した研究は検索されなかった[CONCLUSION]定期的なストレッチは神経症状のある人の関節可動性、痛み、痙縮、活動制限に臨床的に重要な変化をもたらさない

上記から神経症状を伴う拘縮(痙縮など)や痛み・活動制限に対してストレッチは効果が期待出来ません。

ストレッチの生理学的効果は脊髄反射レベルより末梢部分にのみに限定されるので、上位運動ニューロン由来の拘縮や疼痛などに対してはあまり効果が期待出来ないことが分かります。

 

運動器に対するストレッチ

運動器疾患に対するストレッチングの効果
ー要旨ー
【日的】本研究の目的は、理学療法分野での運動器疾患ならびに症状を対象としたストレッチング単独の有用性や 効果を検証することである 。【方法】関連する論文を文献データベースにて検索した。収集した論文の質的評価 を行い、メタアナリシスあるいは効果量か95%信頼区間により検討した。【結果】研究選択の適格基準に合致し た臨床試験25編が抽出された 。足関節背屈制限 、肩関節周囲炎、腰痛、変形性膝関節症、ハムストリングス損傷、足底筋膜炎、頸部痛、線維筋痛症に対するストレッチングの有効性が示され、膝関節屈曲拘縮と脳卒中後の上肢障害の改善効果は見出せなかった。【結論】現時点での運動器障害に対するストレッチングの適応のエビデンス を提供した。一方、本結果では理学療法分野でストレッチングの対象となる機能障害が十分に網羅されていない。ストレッチングは普遍的治療であるからこそ、その有用性や効果を今後実証する必要がある 。

上記から部位・症状によりますが、ほとんどの運動器において効果が期待出来ることが分かります。

運動器とは運動するための末梢器官(関節・骨・筋・靭帯・関節包・筋膜など)を指し、ストレッチは末梢器官に対して効果が期待出来ることが分かります。

 

ストレッチに関するシステマティックレビューを整理すると、脳卒中・神経症状を有する患者では、ストレッチによる長期的な改善は見込めず、運動器においては概ね期待できるということです。

なぜ脳卒中・神経症状を有する患者ではストレッチの長期的な効果が期待出来ないのでしょうか?

脳卒中・神経症状を有すると長期的な関節可動域改善が難しい理由

まず脳卒中患者においてみられる痙縮とは、筋が収縮している状態です。

また、神経症状には痙縮に加えて疼痛(神経痛など)も含まれており、疼痛が生じている部位では多シナプス反射により疼痛部位の筋が収縮します。

これら2つの共通点は【不随的に持続した筋収縮状態が作られやすい】ということです。

骨格筋は筋線維を軸に考えると腱は直列、筋膜は並列な位置関係にあります。(下図)

筋線維が収縮すると並列な位置関係にある筋膜も弛緩位になります。

筋収縮が持続化すると筋膜は弛緩位で不動となってしまいます。

持続した筋収縮を惹起しやすい脳卒中、神経痛などの神経症状を有する患者では筋膜は弛緩位で不動化しやすい状態です。

そのため、ストレッチを一時的に行っても持続した筋収縮が惹起されやすい患者では、長期的な視点でストレッチが有効といえるものが非常に少ないのです。

 

筋線維の伸張性

筋線維において骨格筋の伸張性に関わる要因は、クロスブリッジ・筋フィラメント・コネクチンです。

クロスブリッジ・筋フィラメントは筋収縮時に、伸張刺激に対して強い張力を発揮する要因になります。

コネクチンは分子構造からバネ特性を備えており受動的張力は発揮しますが、コネクチンは不動により減少するので不動により拘縮が生じる要因とは考えにくいです。

これらのことから筋線維において骨格筋の伸長性は筋収縮の有無が大きな要因となります。

また、不動により筋小胞体ではCa²⁺を蓄えておく能力が低下したり、筋小胞体そのものの崩壊が認められており、不動により筋収縮は惹起されやすい状態となります。

不動期間と筋緊張亢進の目安として、【不動期間が2週間を超えてくると筋緊張が高くなってくる】と報告もされているので参考にしてみてください。

不動による筋収縮が惹起されやすい状態は最終的に筋膜の不動化にもつながる為、筋線維では過剰収縮を抑えることが骨格筋の伸長性を保つ・向上させるポイントとなります!!

では次に筋収縮が生じていない状態の骨格筋の伸長性の変化についてお伝えします。

不動により骨格筋の筋長の変化とその背景を考察

不動により筋長の変化

動物を用いた実験において、足関節を最大底屈位で1・2・4・8・12週間不動化すると、不動1週間で骨格筋の筋長が約11%短縮したと言われています。

しかし、ヒラメ筋の筋長は不動1週間で約11%短縮するものの、その後は不動期間を延長しても著明な変化は認められなかったとされています。

持続的な筋収縮などにより弛緩位で不動化された骨格筋は短期間で筋長が短縮するため拘縮の発生に関与することが予想されますが、不動期間が延長しても筋長が変化しないことから拘縮の進行に直接影響している可能性は低いと思われます。

不動により筋長が短縮する背景を考察

不動によって骨格筋全体の長さが短くなることが分かりましたが、筋収縮の最小単位である筋節レベルの変化を見ていきたいと思います。

ヒラメ筋を弛緩位で不動3・4週間不動化すると筋節レベルでは、筋節数が減少し筋節長は延長すると報告されています。

伸長位で不動化すると筋節数は増加し、筋節長も延長されています。

これは骨格筋を弛緩位で不動化すると筋節数は減少し、伸張位で不動化すると新しく筋節を加えることで骨格筋の筋長を維持していると思われます。

筋線維のさらに微細な変化を見ていくと、【不動5日後:局所的に筋節の配列変異常や筋節長の短縮】・【不動7日後:筋原線維の配列乱れやZ帯の断裂・蛇行】がみられます。

こうした筋原線維の配列の乱れやZ帯の断裂・蛇行などが筋節構造を崩壊させ、筋節数が減少するのではないかと思われます。

不動により骨格筋の伸長性の変化と背景の考察

筋膜は主にコラーゲン線維・エラスチン線維・プロテオグリカンなどによって構成されていますが、エラスチン線維は伸張性に富んだ組織でありプロテオグリカンは水分の富んだ組織であり骨格筋の伸長に強く抵抗するような組織ではありません。

そのため、不動による骨格筋の伸長性の変化には筋膜のコラーゲン線維が強く関わっていると言われています。

不動期間に伴う筋膜のコラーゲン線維変化と骨格筋の伸長性についてみていきたいと思います。

骨格筋は不動期間が3週間を超えてくると伸張性が著明に低下してくると言われています。

その背景として筋膜コラーゲン線維の変化についてみていきたいと思います。

不動期間が1週間を超えてくると筋周膜・筋内膜ではコラーゲン線維タイプⅢが増加してくると言われています。

しかし、コラーゲン線維タイプⅢは元々伸張性に富んだ組織なので骨格筋の伸長性低下には大きな影響はないと思われます。

不動期間が3・4週間を超えてくると筋膜のコラーゲン線維では以下の変化が出てくると言われています。

1.コラーゲン線維タイプⅠの増加

2.骨格筋が低酸素状態➡コラーゲン線維増生の助長

3.コラーゲン線維の配列変化

4.コラーゲン線維間で架橋結合の増加

 

1.コラーゲン線維タイプⅠの増加

コラーゲン線維タイプⅠは伸張性に乏しい組織であり、腱や靭帯などの組織で比較的多く含まれています。

靭帯では箇所にもよりますが、最大伸長率は3~8%と言われており伸張性に乏しいことが分かります。

そんな伸張性に乏しいコラーゲン線維が筋膜において増加するため骨格筋の伸長性が低下することが想像しやすいかと思われます。

 

2.コラーゲン線維増生の助長

コラーゲン線維の増生、つまり組織の線維化には低酸素状態が関わっていると言われています。

骨格筋が低酸素状態に陥ると形質転換成長因子(TGF-β)が線維芽細胞を活性化させ、コラーゲン線維の増生が加速すると言われています。

 

3.コラーゲン線維の配列変化

伸張性に乏しいコラーゲン線維ですが、個々のコラーゲン線維は骨格筋が弛緩・伸張された際に配列を変化させることで可動性を生み出しています。

つまり、骨格筋が伸張されるとその伸長方向の長軸に対して平行になるように配列を変化させることで骨格筋の可動性を生み出しているということです。

しかし、不動期間が3週間を超えてくると骨格筋が伸張されても、その長軸方向に対して横走するコラーゲン線にが増加することが分かっており骨格筋の伸長性低下に関わっていることが分かります。

 

4.コラーゲン線維間で架橋結合の増加

不動期間が4週間を超えてくると骨格筋内コラーゲンに対して分子間架橋の生成を促す可能性が高く、骨格筋の伸長性が低下する1つの要因として考えられます。

 

筋性拘縮に対する筋膜の関与

筋膜の構成成分であるコラーゲンは不動によって量的・質的変化が伴います。

骨格筋の伸長性を生み出す為には治療ターゲットは筋膜のコラーゲン線維であるということがイメージ出来るかと思われます。

しかし、コラーゲン線維半減期は約300日と言われており、一度変化したコラーゲン線維を改善させることは容易ではありません。

また、架橋結合に対してストレッチが有効であったと報告されている文献はみられないと思われます。

そのため、コラーゲン線維の量的・質的変化が生じる前に、ストレッチなどの運動療法または温熱療法・振動刺激などによって骨格筋を伸張したり、筋緊張を落とすことが大切であると言えます。

 

不動により関節包の器質的変化

不動期間が1カ月以内で生じる関節可動域制限の主な責任病巣は骨格筋と言われていますが、不動期間が1カ月を超えると関節包が関節可動域制限を生じさせる主な責任病巣になると言われています。

不動期間と関節包の器質的変化について以下に記載します。

不動1週間:コラーゲン線維の増生
不動2週間:コラーゲン線維の密性化
不動4週間:コラーゲン線維の増生・密性化が著明
不動8週間:滑膜同士の癒着

不動初期から関節包ではコラーゲン線維が増生しますが、コラーゲン線維の増生・密性化が不動4週間を超えると著明になることから関節可動域制限の原因になってくると思われます。

さらに不動期間が8週間(2ヶ月)を超えると滑膜同士が癒着し関節可動域制限の大きな原因になることが予想されます。

このような関節包のコラーゲン線維の変化は、関節そのものの損傷(関節内骨折など)ではさらに著明となるため関節を損傷している患者に対してはコラーゲン線維の器質的変化が生じないようにさらに注意が必要です。

先行研究からの考察

ストレッチ・関節可動域制限に関する研究はマウスやウサギなどを対象とした動物が多いです。

意図的に関節可動域制限を作るのは倫理・人道的に反することだからだと思われます。

また、ストレッチを対象とした研究では健常者を対象としているものも多い印象であり、健常者と患者は異なるため研究結果からすぐにリハビリに反映させることは出来ません。

また、身体における解剖・機能は個人差があり同じストレッチでも効果が出やすい人と出にくい人がいます。

関節可動域制限の原因は決して1つではありません。

足関節底屈筋を対象としたストレッチで関節可動域制限の改善を評価している研究が多い印象ですが、足関節背屈可動域制限の原因は腓腹筋・ヒラメ筋のような足関節底屈筋だけではありません。

例えば、長母指屈筋の腱は距骨の後方を通ると言われており、足関節背屈運動時の距骨の後方滑りを阻害する可能性があります。

他にも足関節背屈には腓骨の外側へ挙上する動きが必要であり、本来あるべき腓骨の動きがと乏しくなることも背屈可動域制限の要因になると思われます。

このように足関節背屈可動域制限の原因は1つでなく複数の要因が入り混じっており、1つの筋を対象したストレッチでは効果が出にくいことも予想されます。

以上のことから対象者・治療方法によって関節可動域制限の改善は良くも悪くも変わってくると思われるので、文献の全てを鵜呑みにせず参考程度にして役立てるくらいでいいのではないでしょうか?

ここまで読んで頂きありがとうございました。