【PTが伝える】全人工膝関節置換術(TKA)の概要と関節GAP

【医療者向け】手術

人工膝関節を使用する症例は、関節リウマチや変形性膝関節症などの進行性の関節疾患を発症している場合がほとんどです。

変形性膝関節症の発生頻度は年齢とともに増加し、60歳以上の8割にX線上の変化が認められ、4割に疼痛などの症状があり、1割がADLに障害をもっていると言われています。

発症には性差があり、女性は男性よりも2~4.7倍発症しやすくなります。

日本では変形性膝関節症の85%は内側大腿脛骨関節に生じ、内反膝変形を呈するといわれています。

変形性膝関節症における手術療法には、関節鏡視下デブリドマン、高位骨切り術(HTO)、人工膝関節単顆置換術、人工膝関節全置換術(TKA)があります。

その中でもTKAは安定した術後成績を得ることが可能であり、2008年の時点では年間約6万件の手術が行われています。

TKAの目的は病的な関節変形を矯正すことで適切な下肢アライメントを獲得し、痛みのない安定性と適切な可動性を獲得し歩行可能な膝関節を獲得することにあります。

TKAの手術手技で重要な点は以下の3つになります。

1)適切な下肢アライメントの獲得

2)正確な骨切り

3)正しい軟部組織バランスの構築

全人工膝関節置換術(TKA)の手術方法

皮膚切開

膝関節の皮膚切開は正中切開内側弓状切開・外側弓状切開があります。

日本では欧米などの海外と比べて膝をつくような生活様式がしばしばある為、膝を床につく際に疼痛が生じることがあります。

その為、日本では内弓状切開を用いられることがありますが、内側弓状切開では膝蓋骨内側下部を走行する伏在神経の皮枝を切開する可能性があり、術後に膝蓋骨内側にしびれ感・感覚鈍麻・疼痛を訴えることがあります。

しかし、関節リウマチでは皮膚の脆弱化があるため皮膚の血行のよい正中切開を用いています。

正中切開と言っても膝蓋靭帯等を切っているのではなく、皮膚と脂肪を含む皮下組織を切った跡なので、筋膜の切開部位とは別で考えます。

皮膚切開は正中切開・内側弓状切開・外側弓状切開の3種類
正中切開:日本では生活様式からあまり適さないことが多いが、関節リウマチでは皮膚血行の面から行われる
内側弓状切開:伏在神経の損傷による術後のしびれ感・感覚鈍麻・疼痛の訴えの可能性がある

関節内に侵入

関節内に侵入する方法は様々であり、内側某膝蓋切開法・Sub-vastusus法・midvastus法の3つの方法が主な展開です。

その他にも外反膝変形に用いられるlateral parapatellar法があります。

最も一般的な方法は内側某膝蓋切開法であり、この方法は膝蓋骨の内側支帯を切離するため膝蓋骨の不安定性を生じさせ、膝蓋骨の外側亜脱臼が生じる可能性があります。

その為、外側膝蓋支帯を切離を行う必要性があります。

midvastus法は膝蓋骨上縁で内側広筋を分離して膝蓋骨を反転して関節内に侵入する方法です。

midvastus法では膝蓋骨の不安定性は生じず、外側膝蓋支帯を切離する頻度は大きく軽減します。

関節内に侵入する方法は主に内側某膝蓋切開法・Sub-vastusus法・midvastus法の3種類
内側某膝蓋切開法:内側・外側膝蓋支帯を切離
midvastus法:内側広筋を切離

下肢アライメント

膝関節の正しいアライメントは荷重軸が膝関節の中心を通る必要があります。

この荷重軸をミクリッツ線(機能軸)といい、前額面でみた【大腿骨頭中心】と【足関節中心】を結んだ線が膝関節の中心を通るのかを評価します。

また、大腿骨長軸脛骨内顆間部中央点を結んだ線をFTA(解剖軸)と言います。

このミクリッツ線とFTAで生じる角度は正常ならば5~7°になります。

術中前にこのミクリッツ線とFTAを計測しておきます。

そして、術中の大腿骨遠位端の骨切りの際に大腿骨に挿入した髄内ガイドに対し、術前計測したミクリッツ線とFTAの角度差分を大腿骨より骨切りすることによって、大腿骨機能軸に対して直角に骨切りが可能となります。

脛骨の骨切りは矢状面像で脛骨骨軸に垂直となるように線を引いて、引いた線に対し直角となる線を脛骨骨切り部に引いて、術前の作図を行います。

この際に、脛骨正常関節面より8~10㎜の骨切り線を引いて、脛骨骨切り量をあらかじめ想定しておきます。

術中、大腿骨インプラントと脛骨インプラントを挿入し、膝関節伸展・屈曲時にあった厚さの脛骨トライアルスペーサーを選択します。

基本的に膝関節伸展・屈曲時の関節GAPはほぼ同一となるようにします。

この関節GAPは長方形となるように形成し、内側・外側靭帯のバランスが適切な緊張にある必要があります。

ミクリッツ線(機能軸):前額面でみた【大腿骨頭中心】と【足関節中心】を結んだ線が膝関節の中心を通るのかを評価
FTA(解剖軸):大腿骨長軸脛骨内顆間部中央点を結んだ線
術前に上記から形成される角度を測定し、術中その角度に合わせて骨切りを行い大腿骨機能軸に対して直角になるようにする

大腿骨・脛骨の骨切り

大腿骨と脛骨をインプラントの形状に合わせて骨切りを行っていきます。

骨切りは基本的に脛骨の骨切り・大腿骨遠位端の骨切り・大腿骨後方の骨切り・大腿骨前方の骨切りが必要です。

正確には大腿骨のインプラントは5つの面であるため、大腿骨は5つの面を形成します。(下図)

【大腿骨遠位端】【脛骨】膝関節伸展時の関節GAP【大腿骨後方】と【脛骨】膝関節屈曲時の関節GAPを形成します。

大腿骨は前額面で解剖軸に対し、約5~10°外反位であり、矢状面では0~10°で挿入される必要があります。

脛骨の骨切りは脛骨軸に対し前額面で内外反とならないように90°±2°とほぼ直角である必要があります。

また、矢状面では人工関節の機種によって異なりますが、正常の関節面の後傾(0~7°)にほぼ一致する傾斜が必要です。

骨切り方法

骨切りは、Measure resection techniqueGAP techniqueの大きく2通りに分かれます。

このほかにもModified gap techniqueもあります。

1つ1つ説明していきます。

Measure resection technique

大腿骨骨切りを先行して行ってから脛骨の関節面を切除します。

GAPやアライメントの調整は骨切り後に、組織解離を追加して行う方法で脛骨のインサートの厚さで軟部組織の緊張を得る方法です。

大腿骨の骨切りを先行して行うため、大腿骨回旋アライメントを適切に行う必要があります。

関節線が上昇することを防止し、膝関節伸展・屈曲時のGATが一致しない可能性があります。

 

GAP technique

軟部組織解離を先行してから骨切りを行う方法です。

骨切りを行う際は脛骨を先行して骨切りし、大腿骨の遠位と後面の骨切りは挿入するインプラントの厚みの分(GAP)切除する方法です。

厚い脛骨インプラントを用いると関節線が上昇する可能性がありますが、膝関節伸展・屈曲GAPは適切に形成される特徴があります。

 

Modified gap technique

Modified gap techniqueでは大腿骨・脛骨のどちらを先行して骨切りを行ってもよい方法です。

大腿骨を先行して骨切りする方法)

靭帯バランスを調整した後に大腿骨遠位端を骨切りし、※上顆軸(TEA)を用いて回旋を決定し大腿骨の前面・後面の骨切りを行います。

そして脛骨近位端の骨切りを行います。

この時点で伸展・屈曲の靭帯バランスを調整・後方の関節包の緊張を再評価します。

そして伸展・屈曲GAPの緊張度に応じて大腿骨遠位端の骨切りを追加して行い調整します。

※上顆軸(TEA):大腿骨内側上顆・外側上顆を結んだ線です。

 

脛骨を先に骨切りする方法)

靭帯バランスを調整し、脛骨近位端を骨切りします。

挿入するインプラントの厚み分、大腿骨遠位端を骨切りします。

次に大腿骨前面・後面を上顆軸(TEA)に合わせて骨切りします。

 

次に大腿骨・脛骨のそれぞれの骨切りについてお伝えします。

大腿骨・脛骨の骨切り

大腿骨の骨切り

大腿骨の骨切りは今までお伝えしたように遠位部・前面・後面に分かれます。

大腿骨の骨切りは髄釘ロッド法・髄外ロッド法がありますが、髄内ロッド法が一般的です。

大腿骨の髄内ロッドの挿入は、術前X線で挿入点を確認してから挿入します。

髄内ロッドは伸展位・屈曲位に挿入しないように十分に注意が必要です。

大腿骨前面・後面の骨切りはanterior reference法posterior reference法があります。

 

anterior reference法

大腿骨前面の骨皮質を参照点とする方法で前方皮質のへの切り込みは減りますが、

小さいサイズが選択されると後方の後方の骨切りが大きくなり屈曲GAPが増大し、

大きいサイズが選択されると伸展GAPが増大する危険性が生じます。

 

posterior reference法

大腿骨の後方点を参照点としているため後方のオフセットは十分に確保出来ますが、前方皮質を切り込んで切り込みが生じる可能性があります。

 

大腿骨インプラント設置における回旋アライメント)

大腿骨インプラント設置のための回旋アライメントは適切に行い必要があります。

不適正なアライメントは屈曲GAPに影響したり、膝蓋大腿関節の不適合が生じ膝蓋骨脱臼の原因となります。

 

脛骨の骨切り

脛骨の骨切りは前額面において脛骨の骨軸に直角になるように行います。

骨切りが内反、又は外反すると脛骨インプラントに内側、又は外側に傾いて挿入され脛骨インプラントに不均等な荷重が加わるようになります。

不均等な荷重は長期的にインプラントの緩みを生じさせてしまいます。

脛骨の骨切り量は、正常に保たれている部分の関節面より8~10㎜切除します。

もし骨欠損部位が残った場合はその深さ・範囲より骨移植や補填剤などで対処します

 

靭帯バランスの調整

TKAにおいて内外側靭帯バランス及び後十字靭帯を温存している場合は後方の靭帯バランスも適正に整える必要があります。

靭帯をバランスを整える代表的な変形は内反変形・外反変形・屈曲拘縮です。

内反変形

内反変形の矯正の順序は、脛骨内側関節縁の骨棘切除・内側側副靭帯深層の剥離、追加で必要があれば半膜様筋腱の切離を行います。

さらに後十字靭帯の部分剥離又は切離を行い、鵞足部の剥離を必要とする場合もあります。

上記の軟部組織の剥離・切離でバランスが取れない場合はさらに遠位の剥離を追加して行っていきます。

 

外反変形

変形性膝関節症に加えてリウマチなどの関節炎症疾患などでもみられます。

靭帯バランスを調整するために、関節内より外後方の脛骨外側縁での関節包の切離を行います。

次に腸脛靭帯を脛骨のガーディー結節部で切離又は剥離を行います。

追加で必要な場合は膝窩筋腱の切離・後十字靭帯の切離・外側側副靭帯の切離を行います。

基本的にTKAの種類は、内側支持の弛緩もありPS型CS型を用います。

 

屈曲拘縮

膝関節屈曲拘縮には程度に差がありますが、30°以下の軽度な例では特別な手技は必要としませんが、45°以上の屈曲拘縮を生じている際は、時折困難な手術となります。

屈曲拘縮の主な原因は、脛骨関節面の骨棘・膝関節痛によるハムストリングスの緊張・腸脛靭帯の短縮・後方関節包の癒着・後十字靭帯の短縮などです。

術中の屈曲拘縮に対する手術手技は、脛骨の骨棘切除・半膜様筋腱の切離・後十字靭帯の切離・後方の関節包の剥離を行います。

その後、まだ屈曲拘縮が残存する場合は、両側の腓腹筋起始部の切離を行います。

さらに屈曲拘縮が残存する場合は、大腿骨遠位の骨切りを追加して行います。

以上の手術を行った後は、伸展GAPが狭小化する例が多くなります。

 

トライアル

身体に入れるインプラントと同じ形状のインプラントをお試しで設置することです。

身体に入れるインプラントは、後々サイズが違うので「もう一度やり直しましょう」というわけにはいきません。

その為、「トライアル」を行い設置するインプラントが身体に合っているのかを確かめます。

実際に入れる予定であるインプラントサイズと互換のあるトライアルで入れてみて、縫合しない状態で関節を動かし、可動域や関節包のテンションを確認します。

 

インプラントの設置と洗浄・縫合

トライアルが済みインプラントのサイズが決まれば、実際にインプラントを設置し大腿・脛骨の表面置換を行います。

その後に関節内を洗浄し、関節包・筋・皮膚を縫合し終了となります。

 

関節GAP

関節GAPとは端的にいうと、骨切りした大腿骨と脛骨間の隙間の指標です。

つまり、関節を動す時の「窮屈さ」又は「緩さ」です。

大腿骨と脛骨の隙間が小さく関節の動きが窮屈になり、隙間が大きく関節の動きが緩いと、動きが不安定になるイメージです。

膝関節に関して、伸展時の関節GAP屈曲時の関節GAPを確認します。

大腿骨と脛骨の隙間が小さく窮屈だと屈伸が行い辛く、隙間が大きく関節が緩いと過伸展または脱臼のリスクがあります。

関節GAPを詳しく説明すると、骨切り後に出現する空間の幅(mm)の事を意味し、伸展時と屈曲時のGAPを測定します。

膝関節は伸展時は大腿骨遠位端と脛骨、屈曲時は大腿骨後面と脛骨で関節を構成します。

つまり!!

伸展時の関節GAPは骨切りした「大腿骨遠位端」と「脛骨」の隙間であり、屈曲時の関節GAPは骨切りした「大腿骨後面」と「脛骨」の隙間になります。

そして、この関節GAPはスペーサーブロックというものを用いて評価を行います。

狭い空間にTKAインプラントを無理やり設置すると、当然関節はキツくなり、可動域制限が生じます。

TKA置換術後に膝関節が曲がりにくい・曲がらない、伸びにくい・伸びないというような状態になってしまいます。

反対に空間が広すぎるとTKAインプラントを設置しては関節が緩くなり、膝が不安定になり、最悪の場合脱臼してしまいます。

関節GAPはキツくても緩くてもいけないのです。

【関節GAPまとめ】
骨切りした【大腿骨】と【脛骨】の隙間の空間
膝関節伸展時GAP:骨切りした【大腿骨遠位端】~【脛骨】
膝関節屈曲時GAP:骨切りした【大腿骨後面】~【脛骨】
関節GAPが小さい:関節が窮屈、可動域制限が生じやすい
関節GAPが大きい:関節が緩い、不安定となり場合によっては脱臼するリスクもあり

 

関節GAPが変化する理由

関節GAPが適切であれば、窮屈で可動域制限が生じることもなく、関節が緩く不安定になることもありません。

しかし、実際の臨床では関節GAPには個人差があります。

関節GAPが変化してしまう要因についてお伝えします。

 

骨切りによって変化

大腿骨・脛骨の骨切りは直接、関節GAPに影響します。

簡単にいえば、骨を切り過ぎると関節GAPは大きくなり、骨切りが不十分だと関節GAPは小さくなります。

骨切り位置をどこにするかによって関節GAPは変わってきますが、好きに骨切り出来るわけではありません。

骨切り量は術前のミクリッツ線やFTAから形成される角度であったり、脛骨関節面の変形の程度・選択される大腿骨インプラントのサイズなどによって影響されます。

また、骨切り方法によっても関節GAPが出てしまう可能性があります。【上記:骨切り方法を参照】

膝関節伸展時の関節GAPは【大腿遠位端】と【脛骨近位端】の骨切りの影響を受け、膝関節屈曲時の関節GAPは【大腿骨後面】【脛骨近位端】の骨切りの影響を受けます。

 

軟部組織によって変化

軟部組織の切離・剥離によって靭帯バランスの調整を行ったり・可動域の確保を行いますが、切離・剥離する部位や程度によって関節GAPは変化します。

特に屈曲拘縮が著しく、伸展可動域を確保する際は伸展関節GAPが狭小化するなどし、治療の優先順位によって関節GAPが大きくなったり、小さくなったります。

その為、レントゲン上で大腿骨インプラント・脛骨インプラントの間(脛骨インサート)の厚みを確認し、可動域の予後を予測して介入することが大切です。

参考文献

TKA基本手術手技と問題点 Fundamental Operative Technique for  Total Knee Arthroplasty And Its Problem